◆ 研究成果
Gd化合物における多彩なトポロジカル磁気秩序を高エネルギー・高分解能中性子散乱により解明
BL12 の装置担当者グループは、らせん磁性体 GdRu2Ge2の磁場中の磁気構造を中性子散 乱によって解析し、磁気スキルミオンを含む複数のトポロジカル磁気秩序を発見しました。磁気スキルミオンは近年固体物性の分野で注目されている渦状のスピン配列であり、物質中の磁化分布を連続場とみなした際のトポロジカル欠陥と考えることができます。そのようなトポロジカルな渦構造は粒子としての性質を持って振る舞うことが期待されるほか、その渦の磁気モーメントが伝導電子と相互作用することで、伝導電子に対して有効的な磁場を与え、磁場や磁化に比例しない大きなホール効果(トポロジカルホール効果)を与えるなど、新しい物性現象が数多く報告されています。
磁気スキルミオンは2009年にカイラルな結晶構造を持つ強磁性体 MnSi において発見され、結晶の空間反転対称性の破れに起因するジャロシンスキー・守谷相互作用によって安定化されると考えられていました。しかし2019年に空間反転対称性を保った結晶構造を持つ金属磁性体 Gd2PdSi3においても磁気スキルミオンと巨大なホール効果が報告され、希土類などで多く見られる伝導電子と局在スピンの結合効果によっても磁気スキルミオンのような新奇な磁気秩序が実現可能であることが示されました。これをきっかけとして、類似のGd物質において磁気スキルミオン探索が精力的に行われましたが、Gdは中性子の吸収断面積が極めて大きく、通常の熱中性子領域の波長を使った磁気構造解析は不可能でした。これを回避するためには吸収が小さいGdの同位体を用いることが考えられ、実際過去にはGd酸化物などにはこの方法が用いられていましたが、金属間化合物を育成可能な純良なGd金属の同位体を入手するのは(現在の国際情勢もあり)極めて難しい状況でした。
BL12の装置担当者グループはGdの吸収断面積が顕著なエネルギー依存性を示し、入射中性子のエネルギーが約100 meV を超えると急激に小さくなることに注目しました。この領域のエネルギーを使って磁気散乱測定を行うことにより、Gd化合物からの磁気散乱を観測することが可能になります。また、このように吸収が大きく波長依存する場合は、MLFの回折装置で用いられている多波長 Time-of-Flight法よりも、精度良く単色化された入射中性子を用いて試料を回転させながら測定した方が定量性の良いデータを取ることができます。さらに、100 meVを超えるような高エネルギー・短波長の中性子を用いる場合、低Q領域に現れる強い磁気散乱に対する散乱角は非常に小さくなります。BL12 HRCは高エネルギーかつ単色性の良い入射ビームを使用することができ、さらに最小0.6度までの散乱角をカバーする小角検出器バンクを備えており、上記の条件を満たす最適な分光器といえます。本研究では最近発見された磁気スキルミオン候補物質 GdRu2Ge2において、5T縦磁場マグネットを用いて、磁場中・低温の小角・広角中性子散乱を 150-200 meVの入射中性子を用いて行い、外部磁場の大きさによって様々に変化するサテライト磁気反射を観測しました。網羅的に観測した中性子のデータと、特定のQにおいて磁気モーメントの縦横成分を分離することができる共鳴X線散乱の偏光解析の手法を組み合わせることによって、これらの磁気相が複数の対称性の異なる磁気スキルミオン格子、およびメロン・アンチメロン格子と呼ばれる半整数のトポロジカル数で特徴づけられる新たな磁気秩序であることを明らかにしました。
詳しくはJ-PARCのプレスリリース
https://j-parc.jp/c/press-release/2024/04/01001317.html
をご覧ください。
図1: (a)GdRu2Ge2の6Kにおける磁化曲線、およびHRCの小角検出器で観測されたデータから得られた磁気伝播波数qと(q,0,0)位置の磁気散乱の積分強度の磁場依存性。[(b)-(e)]HRCの広角検出器で観測された、Phase IIからVまでの磁気散乱パターンと対応するスピン配列の模式図。
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