◆ 論文等
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◆ 研究成果
Proof-of-principle experiment on a displacement-noise-free neutron interferometer for gravitational wave detection (名古屋大学 岩口翔輝他)
2015 年の重力波初検出以降、ブラックホール連星や中性子星連星からの重力波イベントにより、多くのサイエンスが進展してきた [1,2]。次の観測目標としては、より低周波帯域の重力波がターゲットとなっており、中間質量ブラックホール連星からの重力波や、インフレーションに由来する原始重力波の観測が期待される。しかし地上検出器では、地面振動や懸架系の雑音といった変位雑音が感度を制限する主要因である。宇宙検出器はこれらの雑音の影響を受けない一方、莫大なコストと長期の開発スケールを要する。
この背景を踏まえ、特別な検出器構成と信号処理により変位雑音を原理的に除去する変位雑音フリー干渉計(DFI)が提案された[3~7]。DFIは低周波で支配的な変位雑音を除去できるが、感度の周波数特性がレーザーの伝搬時間に依存するため、十分な低周波感度を得にくいという課題があった。
そこで、レーザーの代わりに中性子を用いる変位雑音フリー中性子干渉計(中性子DFI)が提案された[8]。中性子は実験的制約の範囲で速度を選択できるため、光より遅い粒子を用いることでDFI の有効周波数を低下させることが可能になる。さらに、中性子の速度選択性を利用することで干渉計の構成を簡素化できるため、これに基づいて原理検証実験に対する実験的要件を緩和する検出器構成が提案されてきた[9,10]。
本研究では、BL05 において名古屋大学 Φ 研および理研が開発した多層膜中性子ミラーによる中性子干渉計を用い、中性子DFIの原理検証実験に成功した[11]。高強度パルス中性子ビームを用いたことで、DFIにおいて要となる中性子の速度選択性を十分に確保でき、結果として変位雑音のキャンセルに大きく寄与した。本実証は中性子DFI のみならず、重力波検出を目的とした中性子干渉計の実験としても世界初の試みである。今回の成果により中性子DFIの有用性が示された(Fig. 1)。今後、検出器の大型化や中性子ビームの高強度化が実現すれば、数Hz以下の周波数帯において、地上検出器でありながら宇宙検出器同等の高感度を達成できる可能性がある。

Fig. 1. Measured modulation signals for the BS noise (purple curve) and GW signal (red curve) as a function of the initial phase in the DFI combination signal. The colored curves and shaded regions represent the fitting results and their associated errors.
参考文献
[1] B. P. Abbott et al. (LIGO Scientific and Virgo Collaborations), Observation of gravitational waves from a binary black hole merger, Phys. Rev. Lett. 116, 061102 (2016).
[2] B. P. Abbott et al. (LIGO Scientific and Virgo Collaborations), GW170817: Observation of gravitational waves from a binary neutron star inspiral, Phys. Rev. Lett. 119, 161101 (2017).
[3] S. Kawamura and Y. Chen, Displacement-noise-free gravitational-wave detection, Phys. Rev. Lett. 93, 211103 (2004).