高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所(IMSS)の低速陽電子実験施設(SPF)では, リニアックベースの低速陽電子ビームを共同利用に供している.2010年秋に, 電子コンバータ/モデレータを改良し, ビーム強度が従来よりも一桁強い 5 x 10^7 e+/s になった. 本講演では, コンバータ/モデレータの改良について説明した後, 増強したビームを用いた反射高速陽電子回折(RHEPD)実験の成果について紹介する.
RHEPDは反射高速電子回折(RHEED)の陽電子版である. 試料の結晶ポテンシャルは電子に対して負であるが, 陽電子では逆の正となるため, 臨界角 (Si なら10keV 入射で 2°) 以下の視射角で入射すると, 電子では観測されない全反射がおこる. 全反射条件下で陽電子は試料のバルクの中に進入せず表面で回折する.KEK-IMSS SPF の高輝度高強度低速陽電子ビームによって, 物質最表面原子層からのみの, 明瞭な回折像を取得することに初めて成功した. (Si(111)-7x7表面)
さらに, 全反射条件からわずかに視射角を大きくしていくと, 陽電子はバルクにも侵入するようになる. これを利用すれば, まず全反射条件下で表面第 1 層の原子配置を決定した後に, 第 2 層, 第 3 層, ..., の順に構造を決定していくことが可能となる. 我々はこの手法について, その特徴を前面に出して「全反射陽電子回折 (TRPD) 法」と名付け, 具体的な解析法を開発中である.