電気伝導性の高い金属的状態での可視光励起と、その高速緩和現象の特徴に関しては、既に、種々の膨大な研究が蓄積されてきている。しかし、これらの多くの場合は、直接的に光で励起される電子の数は僅か(微視的)で、殆どの電子は、光励起直後も、元の基底状態にあり、直接光励起された電子(集団)に対し、ほぼ無限大の熱浴として働く。従って、光によって注入された新たな運動量とエネルギーは、瞬時にフェルミ面の漣となって散逸する。
それでは、元々全く空(電子の真空)だった伝導帯に、僅かとはいえ、巨視的な数の電子を絶対零度(低温)で、一挙に励起したら何が起きるで あろうか?電子間クーロン散乱は完全に弾性的なので、この相互作用は電子集団内での緩和を一切齎し得ない。電子はフォノンを多数放出しながら緩和する以外にないが、最初は雪崩的に音響型フォノンを放出し伝導帯を滑り下りようとするであろう。しかし、フェルミ縮退に近づくにつれ、ラッテンジヤーの定理に従い、極端な長波長音響型フォノン以外は、放出できなくなり、緩和は急速に臨界的に減速していき、フェルミ縮退は、完成直前までは行けても、永遠に完結し得ない。
最近、GaAs、InP 等を、2連レーザー光パルスで強励起し、高速時間分解光電子分光を測定することにより、このような臨界緩和現象が如実に観測されるようになってきた。谷 村・金崎等によるこの実験は、スペクトル形状論ではなく、フェルミ縮退形成の実時間量子動力学解明という意味で、最も単純で、かつ究極の光誘起相 転移と云えよう。