演者は、学生時代に構造生物学を学び、製薬会社の研究員として長年初期創薬研究に携わってきた。その立場と視点で表題について紹介する。また、今春、アステラス製薬から国立研究開発法人産業技術研究所へ移籍し、国研として初期創薬研究を行う事になったので、アカデミア創薬のあるべき姿に ついて私見を述べたい。
構造生物学と創薬研究というと多くの方がSBDD(Structure Based Drug Discovery)という言葉を連想するであろう。薬剤が蛋白質に結合している状態の立体構造を見て次の合成方針を考えるのは、教科書的で当たり前のよ うに思うかもしれない。しかし、現実の製薬企業内での研究スピードで構造情報を提示しながらテーマ進めるという事は、スピードの点で相当な困難が 伴う。普通に構造解析ができたころには化合物のステージが進んでおり「後付け」と揶揄され意味がないといわれる事がほとんどであった。
KEKと2006年に契約締結し、2009年から稼動したAR-NE3ビームラインは、早い構造解析(薬理評価と同等の速さ;化合物を得てから 1週間程度で立体構造を提示する位の速さ)とHTSヒットの解析のように数多くの蛋白質/化合物複合体構造解析、速さと量を両立させるハイスルー プット型のX線構造解析を現実のものとしてくれた。このビームラインを用いた「構造情報をベースにしたドラッグデザイン」の実際とアステラス製薬 が主導し、KEK、産総研、長崎大学、東京大学、東京工業大学、DNDi とコンソーシアムを作り活動している「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases、:NTDs)」治療のための共同研究についてご紹介する。