#40 MLF中性子回折・散乱装置による蓄電池材料研究の展開
物構研コロキウム
日時:1/17(月)9時00分~ 10時00分~ 2022/1/7 変更
場所:オンライン、機構内(物構研とMLF)限定
講演者:森 一広 氏 (KEK-IMSS-KENS 教授)
題名:MLF中性子回折・散乱装置による蓄電池材料研究の展開
要旨:
蓄電池は現代社会の基盤を支える重要なキーテクノロジーの1つであり、その用途はスマートフォンやパソコンのような小型機器から、電気自動車(EV)や家庭用蓄電システムなどの大型機器へと広がっている。それに伴い、現行のリチウムイオン電池を超える新たな蓄電池(革新型蓄電池)の創製が求められている。蓄電池の技術的ブレイクスルーを生み出すためにも、より詳細な電池反応メカニズムの解明、すなわち蓄電池(材料)の基礎研究に高い関心が寄せられている。蓄電池の中では、異なる空間および時間スケールをもつ複数の反応(現象)が同時に進行している。これらの現象を総合的かつ多角的な視点から理解するためにも、ユニークな特徴をもつ中性子の利用がより一層重要になると言える。
本講演の前半では、MLFの高強度全散乱装置NOVA(BL21)およびダイナミクス解析装置DNA(BL02)を利用した全固体リチウムイオン電池の固体電解質材料であるLi2 S–P2 S5 リチウムイオン伝導体の構造・ダイナミクス研究について紹介する[1,2]。主に、リバースモンテカルロ(RMC)モデリングによるLi2 S–P2 S5 のガラス構造の可視化やbond valence sum(BVS)解析を応用したリチウムイオン伝導経路の可視化、さらには中性子準弾性散乱によるリチウムイオン挙動の直接観測について紹介する。本講演の後半では、これらの経験を踏まえて建設したMLFの特殊環境中性子回折装置SPICA(BL09)の特徴的な点について紹介する[3]。中性子飛行距離54mによる中性子回折データの超高分解能化(0.1%以下)に加え、楕円型スーパーミラーガイド管の導入により大強度化を実現している。また、試料から中性子検出器(PSD)までの距離を2mに固定し、水平面内にPSDを連続配置した検出エリアについては、新たな活用方法の開拓やMLF回折装置群との連携利用も期待される。さらにSPICAを利用した革新型蓄電池に関する新たな研究成果として、全固体フッ化物シャトル電池の固体電解質として期待されているBa0.6La0.4F2.4フッ化物イオン伝導体の構造およびフッ化物イオン伝導経路の可視化についても紹介する[4]。
[1] K. Mori et al., Chem. Phys. Lett., 584, 113, (2013).
[2] K. Mori et al., Phys. Rev. Applied, 4, 054008, (2015).
[3] M. Yonemura, K. Mori et al., J. Phys. Conf. Ser., 502, 012053, (2014).
[4] K. Mori et al., ACS Appl. Energy Mater., 3, 2873, (2020).
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