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物構研News No.3

No.3 2012年11月発行

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Contents


超低速ミュオン顕微鏡の実現へ

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この夏、J-PARCにある物質・生命科学実験施設(MLF)ミュオン実験施設では、建設ラッシュを迎えていた。2008年に初めてミュオンビームを発生、今では世界最高強度のパルスミュオンビームを利用できる施設として、基礎科学から産業応用におよぶ幅広い分野の研究が行われている。そして現在、ミュオンを利用した3Dイメージングを可能とする、超低速ミュオンビームラインが建設されている。

ミュオンは宇宙線の一つで、地上では手のひらに毎秒1個の割合で降り注ぐ、身近にある素粒子。MLFで利用しているミュオンは、加速器から作りだされたもので、「超低速ミュオン」とは、名のごとく非常に遅い速度のミュオンビーム。ミュオンそのものを利用した研究は、これまでにも磁性・超伝導などの物性物理学、電子材料の特性解析、さらには考古学的史料の非破壊分析など多岐にわたり行われている。

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胃がんを引き起こすピロリ菌由来の発がんタンパク質

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全世界のがん死亡原因の第二位を占める胃がんは、毎年約70万人もの命を奪っている。中でも日本は胃がん最多発国で、予防や治療に関する研究が盛んだ。胃がんの発症に重要な役割を担うピロリ菌は、世界人口の半数以上が感染していると言われ、近年ピロリ菌が産生するタンパク質「CagA」が、胃の細胞内に侵入することでヒトが持っている様々なタンパク質と結合し、それらの機能を撹乱することで胃がんの発症を誘導することが明らかになってきた。

CagAが胃がんを引き起こす
CagAは約1,200個のアミノ酸が一本鎖に繋がり、折りたたまれてできた大きなタンパク質。アミノ酸配列を調べていくと、タンパク質の端であるC末端領域にCMモチーフとEPIYAモチーフと呼ばれる特徴的なアミノ酸の繰り返し配列があることが分かった。...

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研究トピックス

[材料・燃料電池] 新規合金触媒の開発、家庭用燃料電池の効率向上へ

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家庭用固体高分子形燃料電池システム及び開発触媒の拡大図

北海道大学触媒化学研究センターの竹口竜弥准教授の研究グループは、家庭用燃料電池の効率向上に寄与する白金原子とルテニウム原子が完全に混ざり合った新規合金触媒の開発に成功し、フォトンファクトリーのXAFS等を用いて触媒機能の発現機構と高効率化の理由を明らかにした。
燃料である水素に微量の一酸化炭素が共存しても、新規合金触媒上で一酸化炭素が効率よく除去され、貴金属の使用量を少なくしても、高い効率で燃料電池発電が可能となり、貴金属資源の有効利用を実現した。また、白金原子とルテニウム原子だけでなく、他の原子についても同様に完全に混ざり合った新たな合金触媒の開発が可能となることから、家庭用燃料電池の分野に限らず、エネルギー環境問題解決へも寄与することが期待される。

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[材料・燃料電池]プラセオジム・ニッケル酸化物の高い酸素透過率の原因解明

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Pr2(Ni0.75Cu0.25)0.95Ga0.05O4+δの構造

東京工業大学大学院理工学研究科の八島正知教授と九州大学カーボンニュートラルエネルギー国際研究所/工学研究院の石原達己教授らは、ガリウムと銅を含むプラセオジム・ニッケル酸化物Pr2(Ni0.75Cu0.25)0.95Ga0.05O4+δが高い酸素透過率を持つ仕組みを解明した。この酸化物は、燃料電池材料や酸素透過膜材料として応用が期待されている化合物。その結晶構造を中性子回折、フォトンファクトリーの放射光X線回折などで詳細に解析した結果、同酸化物には大量の過剰酸素が結晶の格子の間に存在していることが分かった。その理由が、ガリウムが大量の酸素原子を格子間に入れる機能を持ち、銅が結晶格子上の酸素を動きやすくさせる働きを持つためと解明。また温度上昇時には、格子上にある酸素と格子の間にある酸素の分布が連結することで、酸化物イオンの移動が起こることが確認され、その原子核の密度が酸素透過率とともに増加することを明らかにした。本成果は、酸素透過率に優れたイオン伝導体の設計に新しいコンセプトを示し、新しいイオン伝導体の開発につながる。高い酸素透過率を持つイオン伝導体は、空気中から酸素を効率良く取り込めるため、固体酸化物形燃料電池等の性能向上と研究開発の加速も期待される。

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[技術] スタンプで半導体製膜を実現

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プッシュコート法による製膜プロセスの概念図

産業技術総合研究所フレキシブルエレクトロニクス研究センター長谷川 達生 副研究センター長、フレキシブル有機半導体チーム 山田 寿一 主任研究員と、電子光技術研究部門は、液体を強くはじく高はっ水性表面に有機ポリマー半導体溶液を塗布し、材料のロスなく均質に薄膜化する技術を開発した。この塗布技術によって、電子ペーパーなどの情報端末機器に不可欠の高性能な薄膜トランジスタ(TFT)を、従来法よりも著しく簡便に製造できる。
半導体薄膜をはっ水性の高いゲート絶縁膜表面に形成してTFTを作製すると、TFT性能の安定性が向上するが、従来の塗布法では表面が液体を強くはじくため製膜が困難であった。今回、有機ポリマー半導体を溶解させた溶液を3層構造のシリコーンゴムスタンプで圧着し、溶液をはっ水性の高い表面全体に均一に濡れ広がらせることによって製膜する新技術(プッシュコート法)を開発した。この技術により、はっ水性の極めて高い表面に、均質性と結晶性に優れた半導体薄膜を得られるだけでなく、従来の塗布法と異なり、材料の無駄をほぼゼロに抑えることができる。この半導体薄膜の結晶性の改善は、KEKフォトンファクトリーを用いて確認した。
この新技術は、フレキシブルデバイスの研究開発を大きく加速するとともに、液体がなじみにくい表面への新しい塗布製膜技術として、さまざまな材料の薄膜化技術への応用が期待される。

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施設情報

超低速ミュオン -超伝導収束ソレノイド電磁石

1月1日、J-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)で建設中の超低速ミュオンビームラインにて、「超伝導収束ソレノイド電磁石」までミュオンビームが通ったことが確認された。これは7月に搬入された超伝導湾曲ソレノイド電磁石に続く部分で、超低速化させるターゲット直前まで、ミュオンビームが到達したことになる。

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放射光 cERL建設状況

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主加速部超伝導空洞の設置作業の様子

現在、建設中のコンパクトERL(cERL)では、8月からKEK加速器研究施設・古屋貴章教授のグループにより、2つの9セル空洞から成る主加速部超伝導空洞の組み立てが行われてきた。9月末にはクライオモジュールが完成し、10月15日、コンクリートシールド内に設置が完了した(写真)。続いて冷凍機との冷却配管の接続作業が進められ、11月中旬には冷却を開始し、12月初旬には性能テストが行われる予定、cERLは2012 年度のビーム運転開始を目指している。

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中性子ビームラインBL09 SPICA完成

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テープカット。背面青いコンクリート遮蔽体の奥にSPICAがある

9月4日、J-PARC物質・生命科学実験施設に完成した、蓄電池解析専用の中性子ビームラインSPICA(スピカ)の完成披露式典が行われた。
SPICAは、リチウムイオン電池などの蓄電池を充放電させながら、リチウムの移動する様子や構成材料の原子配列とその変化を中性子を用いてリアルタイムで観察できる世界唯一の専用装置で、エネルギー分解能、空間分解能の総合性能が世界一の性能を誇る。これにより、原子配列の1000分の1Aほどの変化さえも見分けることができ、高密度にリチウムイオンを取りこむ構造や、繰り返し充放電による性能劣化の原因を解明し、蓄電池の一層の性能向上につなげていく。また将来的には、現在主流となっているリチウムイオン電池に代わる「革新型蓄電池」の開発を目標としている。本ビームラインは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISING事業)の一環として、KEKが京大原子炉実験所らの協力を得て建設された。

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イベント予定

11/17(土)
大学共同利用機関シンポジウム2012 「万物は流転する~誕生の謎」

Symposium

KEK を含む、全国の大学共同利用機関が日々行っている最先端の研究を紹介します。
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12/18(火)~21(金)
MLF School

大強度陽子加速器施設J-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)で中性子・ミュオンを用いた物性実験に関する講義、演習を行う短期スクール。
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12/25(火)~28(金)
ウィンター サイエンスキャンプ 「加速器って何だ?素粒子から身近な物質までを探る」

素粒子を探究し物質の構造を明らかにする研究現場を訪れ、研究者との交流を通じて研究の進め方や楽しさを体験。実習では、基礎的な実験を通して測定機器の製作、調整、データ取得、データ整理、成果発表などを行います。
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お知らせ

3/14(木)~15(金)
物構研サイエンスフェスタ PF・KENS・MUSEシンポジウム合同開催

今年度、これまでは別途行っていた物構研シンポジウムと第30回PF シンポジウムを統合し、PF・KENS・MUSEシンポジウムを合同で開催することになりました。
また13日(水)には、CMRC全体会議、および西川記念シンポジウムが開催されます。 プログラム等、詳細は決まり次第、お知らせいたします。

カソクキッズ セカンドシーズン、連載開始!

kasoku-kids

科学マンガ「カソクキッズ」のセカンドシーズンがスタートしました!加速器を使った様々な研究にキッズ達が挑みます。
>>カソクキッズ