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物構研News No.11

No.11 2014年11月発行

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Contents

  • お肌とX線と
  • 薄くて軽い未来のディスプレイ
  • 研究トピックス
  • [生命] トマトとウイルスの攻防のしくみを解明
  • [材料] 電機伝導性と磁性が切り替わる純有機物質
  • [生命] 病原菌が赤血球を破壊するしくみ
  • 施設情報
  • 中性子 スピンエコー分光器設置
  • ミュオン ビーム輸送コンポーネント設置
  • ミュオン 超低速ミュオン輸送部分完成
  • ミュオン 回転標的をビームラインに設置
  • イベント
  • 大学共同利用機関シンポジウム、科学と音楽の饗宴、KEK公開講座「謎の素粒子ミュオンーその意外な素顔ー」
  • お知らせ
  • 物構研サイエンスフェスタ2014/第6回MLFシンポジウム/第32回PFシンポジウム

お肌とX線と

滑らかで艶やかな肌。
その見え方は角層、特に細胞間脂質の構造に左右される。
一方で、生体にとって大切なバリア機能である肌。
バリアの強さもまた、細胞間脂質の構造が担っている。
これら細胞間脂質の構造が、X線によって解き明かされる。

薄くて軽い未来のディスプレイ

すっかり私達の身近になったスマー卜フォン。その普及率は5割を超えているとの調査結果もある。スマー卜フォンは様々な電子部品を凝縮した、まさに最先端の電子デバイスと言えよう。
中でも重要な部品の一つがディスプレイだ。

研究トピックス

[生命] トマトとウイルスの攻防のしくみを解明

農業生物資源研究所、大阪大学、岩手医科大学は、トマトモザイクウイルスと野生種トマトの攻防のしくみを解明した。トマトモザイクウイルス(ToMV)に感染したトマトは、葉や茎にモザイク模様が現れるモザイク病を発症し、株が萎縮して収穫量を著しく低下させる。ウイルスは作業用具などからも感染、簡単に広がりやすく、治療法もまだないため、有効な防除法が望まれている。野生種のトマトの中には、ToMVに感染しないものがあり、Tm-1という抵抗性遺伝子をもつ。これまでに、このTm-1遺伝子を導入して、ToMVに感染しにくい品種の育種が行われてきた。研究グループは、Tm-1遺伝子がつくるTm-1タンパク質が、ToMVの複製タンパク質の一部であるヘリカーゼドメインと結合し、ウイルスの増殖を阻害することを見いだした。フォトンファクトリーおよびSPring-8を利用したX線結晶構造解析により、これらのタンパク質が結合している部位が解明された。そしてアデノシン三リン酸(ATP)分子が接着剤のような役割を果たしていることも分かった。

詳しくはこちら(物構研トピックス)

[材料] 電気伝導性と磁性が切り替わる純有機物質

東京大学物性研究所の上田 顕助教、森 初果教授らの研究グループは、水素結合ダイナミクスを用いて電気伝導性と磁性を同時に切り替えることができる純有機物質の開発に初めて成功した。そしてKEK 物構研の村上 洋一教授、熊井玲児教授、中尾 裕則准教授、総合科学研究機構、岡山理科大学、東邦大学の研究グループと共同で、この物性の切り替えが熱による水素結合部の重水素移動と電子移動の相関に基づく新しいスイッチング現象であることを解明。さらに、重水素を水素の代わりに導入したことが、スイッチング現象の実現の鍵であることを突き止めた。これは、水素結合を基にした新しいタイプの低分子系純有機スイッチング素子・薄膜デバイスの開発につながると期待される。

詳しくはこちら(KEKプレスリリース)

[生命] 病原菌が赤血球を破壊するしくみ

北海道大学大学院の田中 良和准 教授らは、病原菌である黄色ブドウ球菌の分泌する毒素が膜に孔をあけて赤血球を破壊するしくみをフォトンファクトリー、およびSPring-8の高性能のX線を利用して解明した。病原性微生物は、赤血球の膜に孔をあける膜孔形成毒素を分泌し、赤血球を破壊する。膜孔形成毒素は、赤血球の膜上で8個が環状に集まり、大きく変形して膜に孔をあける。このように膜孔をあけてターゲット細胞を殺傷する方法は、病原性微生物に限らず、我々ヒトを含む高等生物も免疫機能の一環として、普遍的に行われる。研究グループは、黄色ブドウ球菌を用いて膜孔形成直前の状態を作り、X線結晶構造解析により膜孔形成のメカニズムを解明した。その結果、これまで一気に形成されると考えられていた膜孔は、上下半分ずつ別々に形成されることが明らかになった。

詳しくはこちら(物構研トピックス)

施設情報

中性子ビームラインBL06 スピンエコー分光器設置

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J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)のBL06に建設されているVIN ROSEでは、施設検査後、2台の中性子スピンエコー分光器の設置が進められている。写真右側が建設中の中性子スピンに位相差を与える共鳴スピンエコー法(NRSE法)左側が時間ビートエコー法(MIESE法)の装置。中性子ビームの特性解析が行われ、現在は偏極中性子の実験を行っている。今年度中にエコーシグナルを得ることを目指している。

ミュオン S-line ビーム輸送コンポーネント設置

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今夏のビーム休止中、MLF第一実験ホールではミュオンのSライン(Surface Muon、表面ミュオン)の建設が進められた。水色の遮蔽体の中には、セパレーター、マグネット、キッカーなどミュオンビーム輸送に必要なコンポーネントが全て揃い、設置が完了した(右写真)。施設検査に向け、通電試験等の調整を行っている。このビームラインは物性研究に最も良く利用される表面ミュオンビームを供給するためのもの。実験ポートは最終的に4本に分岐させ、それぞれの実験が並行して独立に実施可能になる予定。

ミュオン U-line 超低速ミュオン輸送部分完成

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MLF 第二実験ホールではミュオンのU ライン(Ultra Slow Muon、超低速ミュオン)の建設が大詰めを迎えている。超低速化されたミュオンは遮蔽体の外へ導かれ、二本に分岐される。一本は電場をかけた実験が可能になる(右写真、金属メッシュ部分)。 11月からの運転では、ミュオニウムの発生、大強度レーザーによる超低速ミュオンの発生を目指している。

ミュオン生成標的 回転標的をビームラインに設置

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MLF で利用するミュオンを作り出す標的が固定式から回転式に置き換えられた。ミュオンは、大強度陽子加速器から入射されるパルス状陽子ビームを黒鉛材に照射することで得られる。今回導入した回転標的は、陽子ビームの照射による発熱などの負荷を分散させ、交換までの寿命を延すことを目的としている。11月からの運転で、陽子ビームを照射、ミュオンビームのプロファイル確認を経て運用する予定。

イベント予定

11/22(土)
大学共同利用機関シンポジウム2014
研究者に会いに行こう!
日本の学術研究を支える大学共同利用機関の研究者博覧会

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研究者になりたい!最新の研究成果を知りたい!研究者と交流したい!そんな方々におすすめのイベント

詳しくはこちら

11/22(土)
科学と音楽の饗宴

研究者による講演とコンサートを組み合わせたイベント。第一部は加速器技術を応用した新しい粒子線治療法に関する講演、第二部は弦楽三重奏版のゴルトベルク変奏曲の構成となっています。

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11/29(土)
KEK公開講座「謎の素粒子ミュオン-その意外な素顔-」

加速器から作られるミュオンを利用した最先端の物質科学や、ミュオンの性質を超精密に測定する事で分かる宇宙の歴史、成り立ちに関する講演。

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お知らせ

物構研サイエンスフェスタ2014/第6回MLFシンポジウム/第32回PFシンポジウム開催

2015年3月17日(火)-18日(水)に、つくば国際会議場(エポカルつくば)にて物構研サイエンスフェスタをMLFシンポジウムと合同で開催します。プログラム等詳細は決まり次第お知らせします。