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病原菌が赤血球を破壊するしくみ

物構研トピックス
2014年10月 7日

北海道大学大学院の田中良和准教授らは、病原菌である黄色ブドウ球菌の分泌する毒素が膜に孔をあけて赤血球を破壊する様子をフォトンファクトリー、およびSPring-8の高性能のX線を利用して解明しました。

病原性微生物は、赤血球の膜に孔をあける膜孔形成毒素を分泌し、赤血球を破壊します。分泌された膜孔形成毒素は、赤血球の膜上で8個が環状に集まり、大きく変形して膜に孔をあけます。このように、膜孔をあけてターゲット細胞を殺傷する方法は、病原性微生物に限らず、我々ヒトを含む高等生物も免疫機能の一環として、普遍的に行われています。
研究グループでは、黄色ブドウ球菌を用いて膜孔形成直前の状態を作り、X線結晶構造解析により膜孔形成のメカニズムを解明しました。その結果、これまで一気に形成されると考えられていた膜孔は、上下半分ずつ別々に形成されることが明らかになりました。

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図 膜孔形成毒素の作用機構の模式図と本研究により解明された構造
2種類の毒素は(赤:LukF、青:Hig2)、単量体で分泌され(1)、赤血球の膜状で会合(2)、4つずつ集まった8量体を形成し膜孔を形成する(3)。
画像提供:北海道大学大学院先端生命科学研究院 田中 良和 准教授

膜孔は、孔の内部を物質が通過する性質を利用してDNAシーケンサー*1や分子センサーとしても応用されています。今回、孔形成の過程がわかったことにより、今後は、孔を形成する際の動きを利用した分子デバイス*2への応用も期待されます。

この成果は英国の科学誌Nature Communicationsに2014年9月29日付で掲載されました。

論文情報
Title:"Molecular basis of transmembrane beta-barrel formation of staphylococcal pore-forming toxins"[ DOI: 10.1038/ncomms5897 ]

北海道大学プレスリリースはこちら(PDF)


◆用語解説

  • *1 DNAシーケンサー

    DNAはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種類の塩基が数珠状につながった生体分子であるが、DNAシーケンサーはこれらの4つの塩基がどの順序で並んでいるのかを決める機械である。

  • *2 分子デバイス

    蛋白質やDNAなどが持つ、特定の相手だけを正確に識別して結合する特性や、特定の形へと会合する性質を利用して作られた、特定の機能を持った分子のこと。ウィルスの粒子を利用して薬剤を特定の場所へと運ぶ分子デバイスなどが開発されている。

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