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物構研News No.8

No.8 2014年3月発行

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Contents


最表面の構造にどこまで迫れるか

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ナノテクという言葉が使われ始め、10 余年。半導体素子や薄膜など、ナノ素材の開発は目覚ましい発展を遂げている。これら材料開発の背景には、ナノスケールで正確に観測する手段の発展があってのこと。特にナノスケールでは、最表面の性質が材料としての性質を左右することが多く、最表面の本当の姿を正確に見ることが重要になっている。

見えているとは限らない?
物質の最表面を原子レベルで見るには、走査型トンネル顕微鏡や原子間力顕微鏡などが活用されている。どちらも試料表面を探針でなぞるように移動させながら、表面を調べていくもので、、、

加速器「火入れ」の時

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加速器をゼロから作り上げる現場に居合わせる機会は人生にそう無い。
2013 年12 月末。加速器の制御室は、熱気と緊張感とが入り混じっていた。将来の光源加速器としてKEK がERL(エネルギー回収型ライナック)を提案したのは2005 年のこと。その技術検証用加速器としてcERL(コンパクトERL)が建設されている。この日は、まさに「火入れ」が行われていた。ゼロから設計してきた加速器に電子が通るか、加速されるか...皆がその時を見守っていた。


研究トピックス

[技術] X線イメージング法で金属の実効原子番号を測定

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SiC中の微量Nドーパントの識別に使った産総研が開発した超伝導X線検出器(左)と、それを搭載しKEK フォトンファクトリーのビームラインに設置されたSC-XAFS(右)

日立製作所、KEK および北里研究所は共同で、金属膜を透過するX 線( 放射光) の吸収量と位相の変化をX 線干渉計によって測定し、金属の実効原子番号を観察するX 線イメージング法を開発した。本方式で、アルミ、銅、鉄、亜鉛の単一元素からなる材料を観察し、誤差5%以内で元素の特定を実証した。本計測技術は、大気中で数十ミリメートル領域を数十ミクロンの空間分解能で一括に観察できることから、磁石新素材やインフラ構造部材における元素分布の新たな評価技術として期待される。

>>詳しくはこちら(KEKプレスリリース)

[生命科学] 鋳型を使わずにRNA を合成するしくみを解明

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産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門の富田耕造氏(RNA プロセシング研究グループ長)、山下征輔氏(特別研究員)らは、タンパク質の部品であるアミノ酸と結合する、tRNA の端(3' 末端)に普遍的に存在するCCA 配列が核酸性の鋳型を用いないで付加されるしくみを放射光X 線結晶回折などを用いて解明した。

>>詳しくはこちら(物構研トピックス)


施設情報

ミュオンビームライン 新型検出器KALLIOPE を設置

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KALLIOPEが設置されたD1

1 月上旬、J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)のミュオンビームラインD1 に、新型検出器KALLIOPE(カリオペ)が設置された。KALLIOPE はミュオンが崩壊してできる陽電子/ 電子を検出するための装置で、試料の周りを囲うように配置されている。従来、陽電子/ 電子検出に用いられていた光電子増倍管を光半導体素子に変更。光半導体素子は小型で、磁場の影響もほとんど受けないため、シンチレーターと共に試料近くに置くことができ、高効率で陽電子/ 電子を検出できる設計となっている。検出できるチャンネル数は256ch から1280ch に、立体角はおよそ2 倍となった。今後、ビームを当てての動作確認、ソフトウェアなどの整備を行う予定。検出器とその技術は、現在建設中のU ラインなど、他のビームラインにも展開が予定されている。

超低速ミュオン 建設状況

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J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)の超低速ミュオンビームライン(U-line)では、超低速化されたミュオンを実験ポートまで導くビームラインの建設が進められている。
超低速ミュオンは、二つの実験ポートに分岐して導かれる(図中、矢印の部分)。左側の金属メッシュのポートは、電場をかけられる仕様になっている。

放射光 6 列型アンジュレーターの設置へ

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6列型アンジュレーター

株式会社日立製作所との共同研究により建設中のBL-2 に設置する6 列型アンジュレーター(写真左)が搬入され、調整が進められている。6 本の磁石列(写真右)が独立に動くことで垂直偏光、水平偏光、円偏光を作り出せる。現在、各運転モードの試験が行われている。本アンジュレーター導入により、BL-2には2 台のアンジュレーターが並ぶことになり、軽元素から希土類まで幅広い元素の元素選択的な分光実験が可能になる。今後は3 月にリング内に設置、4 月に調整運転を行う予定。

低速陽電子 3本のビームラインが利用可能に

低速陽電子実験施設(SPF)では、ビームラインの整備、大幅な配置換えが行われ、現在 3 本のビームラインが共同利用に公開されている。1階には、ポジトロニウム負イオン(電子 2 個と陽電子 1 個)の基礎・応用研究を行うSPF-B1、ポジトロニウム生成を通じて表面を調べるポジトロニウムTOF 実験を行う SPF-B2 が設置され、地下 1 階には全反射高速陽電子回折(TRHEPD)実験を行う SPF-A3 が設置されている。A3 は、巻頭で紹介した最表面を観測する実験が行われたビームライン。加速器の運転停止期間の 4 月にはビームのパルス幅を400 マイクロ秒まで可変にするための改造を行う予定。

cERL

イベント予定

4/3(木)~4(金)
理系女子キャンプ

女子高校生に科学に興味を抱いてもらえるよう、科学実験、分野の第一線で活躍する女性研究者による講義、大型実験施設での研究者とのコミュニケーションを交えた施設見学、女子大学院生との懇談会などのプログラム。(※受付終了しました)
>>詳しくはこちら


お知らせ

3/18(火)~19(水)
物構研サイエンスフェスタ2013 第5回MLF シンポジウム/第31 回PF シンポジウム開催

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2014 年3 月18 日(火)-19 日(水)の日程で物構研サイエンスフェスタをつくば国際会議場(エポカルつくば)で開催します。MLF シンポジウムと合同開催となります。また17 日(月)には、CMRC 全体会議が開催されます。
>>詳しくはこちら