IMSS

物構研News No.9

No.9 2014年5月発行

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Contents

  • 「観る」ということ
  • X線でひも解く 微生物の食事
  • 研究トピックス
  • [材料科学] 太陽電池のエネルギー変換効率のカギは分子混合
  • [材料科学] 新構造の酸化物イオン伝導体を発見
  • [技術] 全反射高速陽電子回折法「TRHEPD 法」を高度化 究極の表面構造解析が可能に
  • 施設情報
  • 放射光 X線小角散乱ビームラインが高度化
  • 中性子 VIN-ROSE に初ビーム、施設検査合格
  • イベント KEK公開講座・サマーチャレンジ2014・KEK一般公開
  • お知らせ 物構研特別シンポジウム

「観る」ということ

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不透明な容器に何かが入っている。
フタを開けることなく、中身を当ててもらいたい。容器は直径8センチ、高さ15センチ足らずのプラスチック製、茶筒のような円筒形をしている。手に持って振ると、カラカラと音がする。― 硬い、軽いものらしい。動きからすると、小さいもの、3センチくらいだろうか。そのうちある一人が磁石を持ってきて調べ始める。
これは高校生向けに行われたイベントでの一幕。目では見えないものを調べる時、音や磁力など、色んなものを使って反応から中身を推測する。手法や対象は違えども、研究の現場でもやっていることは基本的に同じだ。可視光で観測できなければ、X線で、中性子で...と様々なビームを当てて、多角的に情報を得る。そうして初めて物質の姿が明らかになっていく。

X線がひも解く 微生物の食事

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土壌の中などに多くいる微生物は、炭素や窒素など地球上の元素循環に大きな役割を果たしている。 微生物が枯葉などを有機物に分解し、それを水とともに植物が吸収する、といった具合に生命活動サイクルの一翼を担っている。 その微生物は有機物に限らず、鉱物も分解しているという。微生物がどのように分解しているのかを、X線顕微鏡で捉えることに成功した。

黄金に輝き、一見すると金にも見えることから、"愚者の金"というニックネームをもつ黄鉄鉱。熱水鉱脈に必ずと言ってよいほど良く含まれる鉱物で、、、

研究トピックス

[材料科学] 太陽電池のエネルギー変換効率のカギは分子混合

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バルクヘテロジャンクション型有機太陽電池の模式図

筑波大学の守友浩教授をはじめとする、物質・材料研究機構、KEK物構研、広島大学、産業技術総合研究所の研究グループは、軟X線顕微鏡を用いて、有機太陽電池のナノ構造を調べ、それぞれの分子領域内で分子が混合していることを発見した。この発見により、有機太陽電池のエネルギー変換機構が明らかになり、高効率な有機太陽電池の設計指針が得られると期待される。

バルクヘテロジャンクション型有機太陽電池は、電子を与えやすいp型有機半導体材料と電子を受け取りやすいn型有機半導体材料を混合して作製する有機太陽電池。これまで、高分子材料とフラーレンの単一分子ドメインとの間に綺麗な界面があることが、電池としての効率を高める上で重要であると考えられていた。しかし、変換効率を最適化した試料のドメイン構造を、フォトンファクトリーの軟X線顕微鏡を使って詳しく調べた結果、それぞれのドメインで分子が混ざっていることが分かった。つまり界面は「汚い」ほうが電池としての性能が優れることが初めて分かり、これまでの常識を覆す結果が得られた。

>>詳しくはこちら(KEKプレスリリース)

[材料科学] 新構造の酸化物イオン伝導体を発見

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東京工業大学の八島正知教授、茨城大学、豪州原子力科学技術機構(ANSTO)の研究グループは、酸化物イオン伝導体の新しい構造ファミリーであるネオジム・バリウム・インジウム酸化物「NdBaInO4」を発見した。 酸化物イオン伝導性材料は、燃料電池、酸素分離膜およびガスセンサーなどに幅広く応用されている。酸化物イオン伝導度は結晶構造に強く依存するので、新しい構造ファミリーに属する新規酸化物イオン伝導体を発見すれば、酸化物イオン伝導体の応用の革新的発展へ向けた新しい扉を開けると期待されていた。 また発見したNdBaInO4の結晶構造の決定およびNdBaInO4の酸化物イオンの拡散経路の可視化にも成功した。新材料発見はこれら機器の高効率化や新規酸化物イオン伝導体、電子材料の開発を促すと期待される。

>>詳しくはこちら(KEKプレスリリース)

[技術] 全反射高速陽電子回折法「TRHEPD 法」を高度化 究極の表面構造解析が可能に

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日本原子力研究開発機構 先端基礎研究センターの河裾厚男研究主幹のグループとKEK物構研の兵頭俊夫特定教授、名古屋大学の一宮彪彦名誉教授らのグループの共同研究および共同利用研究により、KEKの高強度低速陽電子ビームを高輝度化して、TRHEPD法の高度化を実現した。この手法をシリコン結晶の(111)表面に適用し、その表面超高感度性を実証した。

>>詳しくはこちら(KEKプレスリリース)

施設情報

放射光 X線小角散乱ビームラインが高度化

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春のシャットダウン中、フォトンファクトリー(PF)の実験ホールでは、いくつかのビームラインで改造が行なわれた。
その1つであるBL-10Cは、PFの建設当初から溶液試料を中心としたX線小角散乱ビームラインとして運用されてきたが、今回光学系と実験系が一新された。光学系は、分光器とミラーを更新し、集光率を上げることにより高輝度化を実現した。小角散乱実験装置は、BL-6Aや現在立ち上げ調整中のBL-15A2と同様の半自動カメラ長変更タイプのものに更新し、小角用・広角用に2つのPILATUS検出器を導入した。5月末から共同利用実験を再開する予定。 今回の改造により、PFのX線小角散乱ビームラインは全て高度化されたことになり、小角・広角散乱同時測定、時間分解測定など、多彩な実験に対応可能になった。

中性子ビームラインBL06 VIN-ROSEに初ビーム、施設検査合格

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J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)のBL06では、2台の中性子スピンエコー分光器の建設が進んでいる。中性子スピンに位相差を与える共鳴スピンエコー法(NRSE法)と時間ビートエコー法(MIEZE法)の2つの方式を採用することで広い時間・空間領域の観察を目指している。
4月22日には、放射線に関する施設検査が行われ、中性子ビームの使用許可が得られた。現在は中性子ビームの特性解析等、本格的な装置調整を行っている。

イベント予定

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6/7(土)
KEK公開講座

SFの世界で、摩訶不思議なものとして登場する"反物質"や"陽電子"。そもそも反物質ってナニ?から紐解き、陽電子を利用したがんの診断、物質科学など役立つ陽電子についてのお話です。

KEK研究本館小林ホール 13:30-16:00(入場無料)
 「反物質で迫る素粒子の世界」 浅井 祥仁(東京大学 教授)
 「陽電子-身近で役に立つ反粒子 ~がんの診断から物質最表面の原子配置決定まで~」 兵頭 俊夫(KEK物構研 特定教授)
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8/21(木)~27(水)
サマーチャレンジ2014

研究最前線で活躍する研究者と共に実験や解析、最終日には全員が研究成果を発表する、研究を体験するプログラム。
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9/13(土)
KEK一般公開

実験装置・施設の見学や、研究者による講演、おもしろ物理教室など、楽しい企画をご用意しています。加速器科学の最先端の様子をぜひご覧ください。
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お知らせ

5/28(水)
第2回 物構研特別シンポジウム

物質・生命科学分野における大学共同利用のあり方について議論する物構研特別シンポジウムの第2回目を開催します。
大型研究施設の運営スタイルや利用者の範囲、大学や国立研究所、企業等との連携の在り方、利用制度や人材育成、人事交流等に焦点を置いて、大型研究施設、大学共同利用、物構研のあるべき姿について討論する予定です。

2014年5月28日(水)
KEKつくばキャンパス4号館セミナーホール/東海1号館324号室
参加無料、事前登録不要
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