No.13 2015年5月発行
「水素元年」と位置づけられた2015年、水素社会が本当に実現するか否か、今後5年でよりくっきり見えてくるだろう。 4月には東京の芝公園に商用水素ステーションが登場し、政府は今年度中に、全国100か所にまで増設する計画を発表している。
石油などエネルギー資源の乏しい日本にとって、水素を活用することは、エネルギー問題、環境問題にとって重要な課題となっている。 水素は酸素と反応して水になると同時に電気を作りだす。このようにして発電するものを燃料電池といい、その電気で駆動する自動車を燃料電池自動車という。
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加速器のような大型実験施設は、光源系、光学系、検出系、制御系など多くの技術が結集して初めて使えるようになる。
とかく研究成果が注目されがちであるが、大型実験施設の場合、こうした技術開発と実験は両輪となって進められている。
九州大学大学院の橋口 隆生 助教らの研究グループは、米国スクリプス研究所、ヴァンダービルト大学との共同研究で、マールブルグウイルスとエボラウイルスの両方に結合するヒト抗体を特定、ウイルスがヒト細胞の感染に必須の糖タンパク質であるGPタンパク質との複合体の立体構造をフォトンファクトリーと米国Advanced Light Source(ALS)の 放射光を用いて解明した。
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KEK物構研の足立 伸一 教授、野澤 俊介 准教授らは、理化学研究所、高輝度光科学研究センター、スウェーデン ルンド大学、デンマーク工科大学を中心とする研究グループとの共同研究により、光合成反応のモデル化合物内で電子が移動する過程を、X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAを用いて可視化した。
光合成は、葉の中にある色素のクロロフィルが光エネルギーを吸収、クロロフィルから電子一つが別の分子へ移動することから始まる。 これは光合成反応初期過程の最も重要なプロセスの一つだが、約1ピコ秒という極短時間に進行するため、クロロフィルが光を吸収してから、電子が移動するプロセスは大きな謎に包まれていた。
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コンパクトERLでは、電子ビームとレーザービームを衝突させるレーザーコンプトン散乱を行い、X線の取り出しに成功した。これは日本原子力研究開発機構(JAEA) 、および光・量子プロジェクトによる共同研究開発で行われてきたもの。2015年2月から4月にかけて行われた実験において、ビーム径それぞれ30 μmの電子ビームとレーザービームを衝突させ、10 keV級の準単色X線ビームの発生に成功した。
LCSによるX線はエネルギーが揃っているため、イメージングとして利用すると画像の濃淡が観察試料の密度と対応し、試料組織を詳しく解析できる。これは、生体細胞の高分解能イメージングの他、核物質の非破壊検知・測定などの核セキュリティ分野など、新たな計測・観察ツールとしての応用が期待される。
今後、研究グループは電子ビームの電流値の増加等を行い、X線強度の向上を目指している。
フォトンファクトリーにあるタンパク質結晶構造解析ビームラインBL-17Aがリニューアルされ、幅広い波長範囲で10 μm角程度の集光ビームを利用できるようになった。 既存の実験フロアは微小集光実験には適さないため、一度ビームラインを撤去した後、フロア補強工事と再設置を行った。1月からの運転停止期間中には、光学系や回折計、検出器も更新し、新しいビームラインとして5月からの運転期間中に利用が開始される予定である。
物質・生命科学実験施設(MLF)のBL06に京都大学と共同で建設が進められている中性子スピンエコー分光器VIN ROSEにおいて、中性子のスピンエコーシグナルを初めて観測することに成功した。
中性子スピンエコー分光器とは、スピンの向きの揃った偏極中性子が磁場中でコマのように歳差運動する際の位相情報を利用して、中性子のエネルギー変化を評価する分光法。VIN ROSEでは2台の分光器を建設する計画で、今回は時間ビートエコー型(MIEZE型)分光器において、時間とともに中性子強度が振動するエコーシグナルを観測した。 このシグナルは資料に照射することによって振幅に変化が生じ、それを解析することによって広い時間空間領域における原子・分子スケールのダイナミクスの情報を得ることができる。
現在、中性子共鳴スピンフリッパーの調整や標準試料を用いた評価を進めており、今年度末から来年度早々にかけて物性実験に供することができるよう装置開発を進めていく予定である。
平成27年度より、以下の新体制となりました。
所長:山田 和芳
副所長:村上 洋一・瀬戸 秀紀
放射光科学研究施設長:村上 洋一
研究主幹:
放射光科学第一研究系 雨宮 健太
放射光科学第ニ研究系 足立 伸一
中性子科学研究系 大友 季哉
ミュオン科学研究系 三宅 康弘
研究センター長:
構造生物学研究センター 千田 俊哉
構造物性研究センター 門野 良典
物質構造科学研究所 http://www2.kek.jp/imss/
放射光科学研究施設 フォトンファクトリー http://www2.kek.jp/imss/pf/
中性子科学研究系 http://www2.kek.jp/imss/kens/
KEK研究本館小林ホール
13:30~16:00(入場無料)
橋本 省ニ 教授(KEK素核研)
「スパコンと素粒子・宇宙」
岩野 薫 研究機関講師(KEK物構研)
「スパコンで解き明かす物質の不思議」
研究最前線で活躍する研究者と共に実験や解析、最終日には全員が研究成果を発表する、研究を9日間にわたって体験するプログラム。申込5/14締切。