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物構研News No.10

No.10 2014年8月発行

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Contents


光合成のしくみ

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地球上の生命体がなす最も重要な化学反応ともいえる「光合成」。
言うまでもなく、我々動物は植物が作り出す酸素無しには生存で きない。また光合成によって作られた有機物を食糧として摂取し、 燃料としても利用している。

光合成は、全ての生き物を生かす源となっているのだ。
こんなにも重要で広く知られている光合成だが、その仕組みは未 だに解明されていない。

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More Is Different ― 多は異なり、再考

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" More Is Different -多は異なり"。これはフィリップ・ウォレン・ アンダーソン博士(プリンストン大学物理学教授、1977 年ノーベ ル物理学賞受賞)の言葉で、1972 年のサイエンスに掲載された論 文のタイトルである。科学の階層性を表した言葉だ。

それから40 年余たった今、科学も研究手法も、技術の進歩と共に 多様化し、物性科学に携わる者として、今の時代におけるMore Is Different を改めて再考する。

研究トピックス

[技術] 人類が手にする物質を透視する新しい" 眼"

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大阪大学の寺田 健太郎 教授などの研究チームは、J-PARC のミュオン実験施設MUSE の世界最高強度のパルスミュオン ビームを用い、数mm 厚の隕石模擬物質から軽元素(C、B、N、O) の非破壊深度分析、有機物を含む炭素質コンドライト隕石の深度70 μ m、および深度1 mm における新しい非破壊元素分析に成功した。 負ミュオン( μ -) は、電荷-e、質量が電子の約200 倍の不安定素粒子。ミュオンを取り込んだ元素が発生する特性X 線は高い物質透過能力を持つため、物質深部からのX 線でも観測できる。また炭素のような軽元素から重元素まで非破壊で深度分析ができる。

この物質透過能力の高いミュオンを用いた分析は、非破壊でcm サイズの物質内部の元素の濃度と分布を知る事ができ、 今後、位置検出型の検出器の開発により、人類はX 線ラジオグラフィーに次ぐ物質を透視する新しい" 眼" を持つ事になる。例えば、未知物質や貴重な試料を密封状態で化学組成調べたり、2020 年帰還予定の「はやぶさ2」が小惑星から持ち帰るサンプル中の有機物含有量や分布の非破壊分析などに威力を発揮すると期待される。

>>詳しくはこちら(KEKプレスリリース)

[生命科学] ヘルペス感染のしくみを解明

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北海道大学大学院の前仲 勝実 教授、大阪大学 免疫学フロンティア研究センター/微生物病研究所の荒瀬 尚 教授らの研究グループは、単純ヘルペスウイルスが宿主の免疫細胞から排除されることなく、 体内へ入り込む巧妙な感染機構をフォトンファクトリー、SPring-8 を利用したタンパク質の立体構造の分析から原子レベルで解明した。

今回、研究グループはウイルスと結合する前のPILR α単体、およびウイルス表面にある糖タンパク質と結合した状態のPILR α複合体をX 線回折実験によって構造決定した。その結果、PILR αはウイルス表面にあるgB ペプチドを含むシアル化O 型糖鎖を認識することが分かり、単純ヘルペスウイルスが侵入する際に、このアミノ酸からなる糖ペプチドを添加すると、 PILR αのgB 結合部位がふさがれ、侵入阻害剤として利用できることが分かった。

>>詳しくはこちら(物構研トピックス)

[材料] 光で溶ける結晶

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東京工業大学大学院の星野 学 研究員、腰原 伸也 教授、産業技術総合研究所の則包 恭央 主任研究員、阿澄 玲子グループ長、KEK 物構研の足立 伸一教授らの研究グループは、有機結晶が光で融解するメカニズムを、フォトンファクトリーの単結晶X 線構造解析によって解明した。

対象としたのは、長鎖アルキル基を有したアゾベンゼン誘導体の結晶で、-183 度で光を当てても溶けず、室温で光を当てると溶ける性質を持っている。 -183度から室温まで変化させながら単結晶X 線構造解析を行い、構造変化を調べた。その結果、温度上昇に伴い結晶中で長鎖の部分がダイナミックに動き、熱運動を起こしている様子を捉えることに成功した。結晶では分子はベンゼン環の部分が整列しているが、光照射するとアゾベンゼンが歪み(光異性化)、整列が壊れ始める。更に長鎖の熱運動が加わることで、全体が一気に乱れた状態へ転移し、融解が起こると考えられる。

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施設情報

放射光 構造生物学ビームラインの高度化に着手

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夏のシャットダウン中、フォトンファクトリー(PF)の実験ホールでは、BL-17A の高度化が行なわれている。
6月30 日の運転停止後から、ビームラインの一部解体、光学ハッチを撤去し、7 月22 日から床補強の工事を行っている。この高度化は今年度末まで段階的に行われ、最終的には幅広い波長領域で10 μm角程度の微小集光ビームを用いた実験が可能になる。また結晶化プレートを含めた非凍結試料からの回折データセット収集なども行えるようになる予定である。

中性子ビームラインBL12HRC 超伝導電磁石を導入、磁場印加実験へ

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J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)のBL12 に設置された高分解能チョッパー分光器HRC は、物構研と東京大学物 性研究所が共同で運営している。東大物性研は、試料環境装置である超伝導電磁石の整備を分担し、これまでに14 T 超伝導電磁石の組立調整試験を行ってきた。
今後、この超伝導電磁石をHRC で実験するため、7 月17 日よりHRC での調整作業を開始した。10 月までのビーム休止期間中、HRC へ設置した際の最大印可磁場と、周辺機器への磁場の影響の評価を行う。これにより、HRC で磁場印加実験が可能になり、11 月からの使用開始を目指している。

ミュオン生成標的 回転式標的を導入

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J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)で利用するミュオンを作り出す標的が固定式から回転式(写真)に置き換えられる。
ミュオンは、大強度陽子加速器から入射されるパルス状陽子ビームを黒鉛材に照射することで得られる。しかし、大強度故に黒鉛が発熱・損傷・放射化などの問題があり、ある一定期間ごとに標的を交換する必要があった。今回、導入する回 転式標的は、発熱などの負荷を分散させ、交換までの寿命を延すことを目的としている。夏のビーム休止中、標的入れ替えと動作確認、運転監視モニター機器などの調整を行い、次の運転からの運用を目指している。

コンパクトERL LCS ビームライン建設に向けて

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コンパクトERL(Energy Recovery Linac) では、 X 線を作り出すため、レーザーコンプトン散乱(LCS) の実験に向けた建設作業が始まった。このプロジェクトは日本原子力科学研究機構を中心にKEK との共同開発により進められている。
LCS によって作り出されるX 線は、コンクリートシールドの取り出し口を貫通するLCS ビームラインを通って隣接する実験室に導かれる。
今年度末までにLCS-X 線の発生実験を行う予定。

イベント予定

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9/13(土)
KEK一般公開

実験装置・施設の見学や、研究者による講演、おもしろ物理教室など、楽しい企画をご用意しています。加速器科学の最先端の様子をぜひご覧ください。
>>詳しくはこちら

12/16-19
MLF School 2014

中性子、ミュオンを用いた実験に興味を持ちながらまだ足を踏み入れていない若手研究者を 対象に、中性子、ミュオンを用いた物性実験に関する講義、演習を行う短期スクールです。
参加申し込みは9/1まで >>詳しくはこちら