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last update:08/12/25  

   image 変化の年に    2008.12.25
 
        〜 2008年のKEKを振り返る 〜
 
 
  日本漢字能力検定協会が公募した2008年の「今年の漢字」は「変」だそうです。国内外の経済や政治状況の激変や、北京オリンピックでの日本人選手の活躍、待望の日本人ノーベル賞受賞者が素粒子物理学の分野で出たこと、など、善くも悪くも大きな変化があった一年だったと思います。KEKでも、創立以来の節目となる、大きなニュースが続いた一年でした。

待ちに待ちに待ちに待った、ノーベル賞!

KEKにとっても、また国内外の研究者にとっても、今年最大の明るいニュースは、なんといっても南部先生、小林先生、益川先生、下村先生のノーベル賞受賞でしょう。KEKと米国SLAC研究所のBファクトリーがしのぎを削って小林・益川理論を検証したことと、現在の素粒子理論の根幹をなす自発的対称性の破れの考え方が、ノーベル賞という目に見える形で認められたことは、素粒子物理学の研究が「標準理論」を超える未知の領域へと踏み出していく変化の時代の訪れを感じさせてくれます。

KEKも、Bファクトリーやその前のトリスタン加速器による実験、PS加速器を用いたニュートリノの実験など、小林・益川理論とともに歩んできたといっても過言ではないほど密接に関わる研究分野であるだけに、今後もこの分野の世界の拠点の一つとして活躍できるよう、努力を積み重ねていきたいと考えています。

新時代の旗手、J-PARCとLHC

人類は自然を観察するために、顕微鏡や天体望遠鏡など人間の知覚を広げるための道具を常に開発しながら研究を進めてきました。極微の世界を研究するための加速器もどんどん巨大化し、従来では考えられなかったような物質の探求を可能にしてきました。

KEKと日本原子力研究開発機構が2001年から茨城県東海村に共同で建設を進めてきた大強度陽子加速器施設(J-PARC)では、8年間の建設期間も大詰めを迎え、物質・生命科学実験施設の中性子ミュオンのビームを利用した実験の調整が始まりました。陽子ビームを最初の目標である30GeVまで加速することにも成功し、原子核・素粒子実験施設やニュートリノ実験施設(T2K実験)へのビームの供給も来年3月までには始まります。

世界最高レベルの中性子、ミュオン、ハドロン、ニュートリノなどのビームを使った研究によって、産業界における応用研究から、基礎物理学の未知の領域の新発見にまで、国内外の期待が高まっています。

9月10日には、14年の歳月をかけて世界中から数千人の研究者が集まってスイス・ジュネーブ郊外に建設を続けてきたCERN研究所のLHC加速器がいよいよ稼働を始めました。残念ながら超伝導磁石の事故によって、復旧と運転再開は2009年夏以降となってしまいましたが、日本からも100名を超える研究者が参加する実験ですので、ヒッグス粒子の発見や超対称性粒子などの未知の現象の探索への期待はますます高まっています。

新分野への挑戦

素粒子を検出するための新しい測定器を開発するための活動も新しい局面を迎えています。2月には測定器の性能を調べるための富士テストビームラインが動き始めました。放射光をさらに効率よく利用するための高速のX線反射率測定法も開発されています。超小型の放射線イメージセンサーを作るSOI Pixel検出器などの技術開発も進んでいます。

測定器は宇宙研究の分野でも活躍しています。Belle測定器などでも活躍している半導体検出器が、ガンマ線宇宙望遠鏡(GLAST:のちにFermi Gamma Ray Telescope)として日米協力により無事に打ち上げられました。米国ユタ州の砂漠で超高エネルギーの宇宙線を観測するためのテレスコープアレイの較正をするための加速器も、KEKで開発されました。南米チリ・アタカマ高地で宇宙マイクロ波背景放射の偏光を観測し、宇宙創成の謎の解明を目指すQUIET実験でも、KEKは測定器の開発に重要な役割を果たしています。

理論や数値計算の研究でも様々な進展がありました。超弦理論を使ってブラックホールの内部に存在すると考えられている「弦の凝縮状態」を計算することに成功したり、真空凝縮と呼ばれる現象の研究が進んでいます。

四つの道具を使い分ける「物構研」

KEKの物質構造科学研究所(物構研)は、物質の構造や機能を調べるために、放射光、中性子、ミュオン、そして低速陽電子というという四種類の量子ビームを使い分けることができる、世界でも極めてユニークな存在です。物構研では本年も、それぞれのビームを用いた科学研究の分野で、様々な発見がありました。

放射光科学研究施設(フォトンファクトリー)では、インフルエンザウィルスの増殖に必須なRNAポリメラーゼつながり方の違うユビキチンの目印を見分ける脱ユビキチン酵素細胞分化に重要な役割を果たすDNAのメチル化の認識、と、非常に重要な生命現象の鍵を握るタンパク質の構造とそのしくみが次々と明らかにされました。これらの成果は、今年の夏に科学雑誌「Nature」に続けざまに発表され、大いに注目を集めました。また、ミュオン科学研究グループは、水素ガスを燃料に使用した環境にやさしいエネルギーの実用化につながる物質の新しい性質を発見したり、1つの物質中に2つの異なる超伝導状態が共存するという「二重ギャップ超伝導」と呼ばれる極めて珍しい状態を確認することに成功しました。さらに中性子科学研究グループは、J-PARCに新設されたビームラインの超高分解能粉末中性子回折装置SuperHRPD中性子回折実験装置で、早くも世界最高の高分解能を達成しました。

加えて、「物構研シンポジウム」の第一回が開催されたのも、本年の一つの成果と言えるのではないでしょうか。「物構研シンポジウム」では、四つの量子ビームをより総合的・効果的に用いて物質構造研究を進めるために今後どのようなサイエンスを極めていくべきかが活発に議論され、また加速器を用いた物質構造科学という分野の新しいビジョンを生み出す場ともなりました。 来春には、物構研のさまざまな量子ビームを総合的に利用し、私たちの未来を豊かにするさまざまな「もの」を創造するための先端的な研究拠点として「構造物性研究センター」が設立される予定です。

未来へのバトン

7月には、前機構長の戸塚洋二先生が亡くなられるという悲しいニュースもお伝えしなければなりませんでした。小柴昌俊東京大学特別栄誉教授が「弟子の弔辞を読む痛恨」と悼み、「あと18ヶ月長生きしたら」と、悔やむほど、ノーベル賞のニュースを心待ちにしていた人物の早すぎる死に、世界中から弔辞が寄せられました。

戸塚先生が生前、力を注がれておられたことの一つに若い世代への教育があります。KEKでも総研大の夏期実習サマーチャレンジ、ウィンターサイエンスキャンプ、科学技術週間一般公開公開講座など、様々なイベントでいろいろな年齢層の人々との交流の機会を設けています。

またJ-PARCで来年から実験が始まるニュートリノ実験(T2K)で使われる検出器の性能を詳しく理解するために、装置を米国フェルミ国立加速器研究所に送ったSciBooNE実験でも、大きな進展がありました。

ノーベル賞によって日本の素粒子物理学や加速器科学の底力に改めて世界からの注目が集まっています。研究現場に変化をもたらす若い力を、KEKではこれからも支えていきたいと考えています。



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    /ja/newskek/2008/

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[図1]
記者会見で、鈴木機構長が小林先生に花束を手渡す。両氏とも破顔一笑。
拡大図(79KB)
 
 
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[図2]
12月23日、J-PARC50GeVシンクロトロンで陽子ビームを30GeV(300億電子ボルト)まで加速成功。
拡大図(107KB)
 
 
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[図3]
高速のX線反射率測定法、超高分解能粉末中性子回折装置SuperHRPD、SOI Pixel検出器。
拡大図(43KB)
 
 
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[図4](Credit: NASA)
高度560kmの円軌道を周回するGLAST衛星の想像図。
拡大図(76KB)
 
 
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[図5]
スーパーコンピュータを使って、ブラックホールの内部に存在すると考えられる「弦の凝縮状態」のエネルギーを計算することに成功した。また、格子QCDを共有するためのJLDGの運用が開始された。
拡大図上(116KB)]  [拡大図下(52KB)
 
 
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[図6]
インフルエンザウィルスRNAポリメラーゼの機能の鍵を握る部分。
拡大図(69KB)
 
 
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[図7]
今年の一般公開には3700人の方々が来場した。その他、多様なチャンネルを通して、研究所の紹介機会に恵まれた。
拡大図(81KB)
 
 
 
 
 

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