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加速器科学のいまを伝える 2007.12.27 |
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〜 News@KEKで読む2007年 〜 |
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2007年も年の瀬を迎えていますが、皆さまにとってこの1年はどのような年でしたか。News@KEKでは、今年も毎週木曜日にさまざまなニュースをお届けしてきました。今日は、News@KEKで2007年を振り返ります。 湯川博士生誕100年 今年は、日本人初のノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士の生誕100周年でした。今年最初のNews@KEKは、湯川博士の物理学者としての足跡と博士が提唱した中間子論をご紹介しました。 スパコンの成果 この湯川博士の中間子論による陽子や中性子の間に働く引力を作り出す核力や、逆に陽子や中性子が近づいたときに反発する核力の力(斥力芯)を量子色力学(QCD)で導き出そうという試みが、KEKに2006年に導入されたスーパーコンピュータを用いて成功しました。また、素粒子の質量の起源を、「クォーク・反クォークのペアが真空を埋めつくしている」ことで説明する、南部陽一郎博士の提唱したアイディアも、スーパーコンピュータを使った格子QCD理論の計算によって確かめることに成功しました。スパコンを使った研究機会を全国の研究者に開いている「大型シミュレーション研究」が、成果を挙げ始めた年でした。 素粒子物理のいま 1月に米国フェルミ国立研究所のテバトロン加速器を使って行われているCDF実験で、Wボソン粒子の精密測定により、ヒッグス粒子が従来の予測よりもやや軽い領域に存在するという結果が発表されました。ヒッグス粒子は、標準理論で想定される粒子の内、唯一未発見の粒子で、2008年に稼動開始を予定している欧州合同原子核研究機関(CERN)のLHC加速器による実験で発見が期待されている粒子です。世界の研究者が構想する国際リニアコライダー(ILC)計画でも、ヒッグス粒子の精密な観測が大きな目標のひとつとなっています。これに対し、CDFでの成果は、先んじてヒッグス粒子の存在領域をより限定的にするものであり、更に同実験では、ヒッグス粒子を直接探索する解析も進められています。国際的にヒッグス粒子の発見に向けた取り組みが本格的になってきました。 そのヒッグス粒子の発見を始め、新たな物理の展開が期待されるLHC加速器でのATLAS実験については、巨大な測定器のミューオントリガーシステムの「ビッグホイール」が完成した模様をお伝えしました。実験開始に向けた作業が大詰めを迎えています。いよいよ始まるATLAS実験の模様は、2008年のNews@KEKで詳しくお伝えする予定です。 KEKB加速器を使って行われているBelle実験では、3月に「量子もつれ」、8月に「D中間子の混合現象」、そして11月には「電荷を持った新しい中間子の発見」と、3つの新たな研究成果を発表しました。新しい物理の可能性に向けて着実に実績を積み重ねるBelle実験が、2008年はどんな成果を見せてくれるのか、ご期待ください。 素粒子の世界を探ることはまた、宇宙の謎に迫る道でもあります。KEK素粒子原子核研究所に、今年4月に宇宙物理部門が設置されました。次々に報告される宇宙観測の新たな結果を、物理で理解する研究が、KEKにおいても本格的に始まりました。 放射光による成果 フォトン・ファクトリー(放射光科学研究施設:PF)からは、今年も数多くの研究成果が生み出されました。News@KEKでも、15本のPFに関連した記事をお届けしました。そのうち、タンパク質の立体構造に関するニュースが6本。この他にも紹介しきれなかった新しいタンパク質の構造がどんどん明らかになっています。いまや生命科学にとっても放射光はなくてはならないものとなりました。 今年のノーベル物理学賞の受賞対象となった「巨大磁気抵抗効果」という性質が今日のハードディスクの大幅な小型化に貢献したことは皆さんもご存知でしょう。この巨大磁気抵抗効果に関する研究成果もご紹介しました(ステップ構造で磁化を制御、ものの表面の電子状態を見る)。このような優れた性質を持つ新しい物質の開発には、電子のふるまいを直接捉えることのできる放射光は大変有力な道具です。 放射光で捉える分子の姿も、静止画から動画へ変化しつつあります。数ミリ秒から数秒という時間のスケールで燃料電池触媒の表面で起こる化学反応を捉えた研究や、結晶が破壊される100億分の1秒の瞬間を捉えた研究をご紹介しました。 実験開始間近のJ-PARC 2008年の実験開始を目前に控えた大強度陽子加速器施設(J-PARC)の建設状況は、今年も随時お伝えしました。加速器では、1月にリニアックが水素負イオンを181MeVまで加速することに成功し、10月には3GeVシンクロトロンが3GeVまでの陽子加速に成功しました。実験施設では、ハドロン実験施設の建家が完成し、ニュートリノ実験施設にターゲットステーションという主要機器が搬入されました。また、物質・生命科学実験施設も建設が大詰めを迎える中、100メートルという長いビームラインとそこに設置されるSHRPDという超高分解能回折装置について紹介しました。加速器や実験施設の準備が進む一方で、研究者の側では、施設利用に関する情報共有や意思形成などを目的として、ハドロンホールユーザー会や物質・生命科学実験施設の利用者懇談会が設立されるなど、実験開始に向けた動きが活発になってきました。2008年のJ-PARCの展望は、年明け早々にお伝えします。 教育の場として 今年の夏、KEKでは、学生たちにさまざまな教育の機会を提供しました。素粒子・原子核分野を中心とした研究者は、8泊9日のスクール“サマーチャレンジ”を開催しました。全国の大学から99名の参加者があり、夜遅くまで課題実験に取り組む学生たちと熱心に指導する研究者の姿がありました。また、Belle実験グループは今年も、高校生を対象とした素粒子サイエンスキャンプ“Belle Plus”を開催しました。その他にも総研大の夏期実習や特別講義など、夏場の施設の運転休止期間を利用した取り組みが、積極的に展開されました。 社会へのアプローチ 広く社会に向けてKEKを紹介する多くの機会もありました。6月〜9月には、つくばエキスポセンターとの協力の下、KEKの紹介展示を行いました。期間中、KEK機構長の講演会や霧箱教室、科学おもちゃコーナーの設置なども行い、ご来場の皆さまに好評を博しました。9月2日に行われた毎年恒例の一般公開には、昨年を900人上回る3800人の方にご来場いただきました。10月27日と11月3日に開催した公開講座にも、例年同様、多くの方にご参加いただきました。また、最近では、大型設備を備えた工場などを見学する「大人の社会科見学」が流行っているようです。KEKもそういった企画で紹介されることが多くなりました。皆さんの関心に応えられるような、そんな機会をこれからも作っていきたいと考えています。 2002年1月に創刊したNews@KEKは、今年の11月29日の記事で300本を数えました。2007年にお届けした49本の記事も、皆様に加速器科学の最新の動向をお届けするよう努めてまいりました。来年も引き続き、ご期待に沿えるようなニュースを掲載していきますので、ご愛読いただけますようお願いします。
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