学校法人東京理科大学科学技術交流センター(承認TLO)
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
東京理科大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の研究グループ(代表、東京理科大学 理学部物理学科 長嶋 泰之教授)は、電子1個と陽電子1個が束縛し合っているポジトロニウムを、エネルギーの揃ったビームとして超高真空中で生成することに成功しました。通常、電荷をもたないポジトロニウムは電場による加速ができませんが、今回、KEK物質構造科学研究所のパルス状陽電子ビームを用いて生成したビームは、1keVを超えるエネルギーにまで自由に加速することが可能です。
電荷が無いポジトロニウムビームは、絶縁体の分析に適しています。本ビームは、超高真空が不可欠な絶縁体表面の分析に用いることもでき、1keV以上に加速すれば短い寿命の間に1m以上の輸送が可能となり、絶縁体表面にすれすれの角度で入射して回折実験に利用するなど、研究手法としての展開が期待されます。さらに、いまだ謎の多いポジトロニウム自身の性質解明が可能となります。
本成果は米国の科学雑誌「Applied Physics Letters」オンライン版で近日中に公開される予定です。
>>Applied Physics Letters, vol.100,254102 "An energy-tunable positronium beam produced using the photodetachment of the positronium negative ion"
図 ポジトロニウムの飛行時間スペクトル。EPsは、光脱離によって生成されたポジトロニウムのエネルギー (K. Michishio et al., Applied Physics Lettersより転載)。
最上段のスペクトルと2段目のスペクトルを見比べると、レーザー光を照射した場合は45ナノ秒にピークが現れている。これはレーザー照射によって生成されたポジトロニウムが、45ナノ秒かけて80cm離れたところに置かれた検出器に到達し、観測されていることを示している。ポジトロニウムの加速エネルギーを下げると、ポジトロニウムが検出器に到達する時間が遅くなっていることがわかる。