2月9日、10日、茨城県量子ビーム研究センターにて、J-PARC/MLF中性子アドバイザリー委員会(Neutron Advisory Committee; NAC-2012)が開催されました。NACは物質・生命科学実験施設(MLF)で推進する中性子科学のための施設や運用体制について、海外の研究機関を含む外部の専門家を招き、議論・検討するものです。
初日、全体の概要と東日本大震災による被害とその復旧状況について、J-PARCセンターおよび物質・生命科学実験施設(MLF)から報告されました。午後には、中性子を発生させる中性子源の開発について発表がありました。加速器から入射される陽子ビームの強度が上がると、中性子源である水銀中に発生する細かな気泡が容器に損傷を与えることが分かっていました。今回新しく開発、置き換えた中性子源では、水銀中にヘリウムの気泡を導入することにより、損傷を軽減できるようになります。これにより陽子ビーム強度を1MWまで上げることが可能になる、との報告がありました。ミュオンのセッションでは現在運用されているビームラインDラインにおいて、キッカー電磁石系の性能検証を行っていることが紹介されました。キッカーが運用されれば、Dラインを分岐したD1とD2エリアで同時に実験が可能になり、実質的にビームタイムが2倍になります。次に、現在建設している超低速ミュオン専用ビームラインであるUライン、建設予定のSライン、並びにHラインに関わる将来計画が紹介されました。またミュオンを発生させるミュオン源についても、回転させることによって損傷を軽減、長寿命化させる回転標的の開発に関する発表が行われました。
二日目は、主な研究成果、そのためのデバイス、データ解析ソフトウェアの開発を中心に発表が行われました。最近の研究から、全固体リチウムイオン電池実現に向けての一歩となる超イオン伝導体の発見や、電気的性質と磁気的性質が相関することによって新しい性質の出る物質の非弾性散乱実験の結果など、目覚ましい成果が出てきている、との報告がありました。また、測定データの質の向上のため、バックグラウンド低減や検出器などの装置を開発する努力や、得られたデータを世界中のどこからでもアクセスできる環境の整備等の報告もありました。これらの努力は、世界中から利用に訪れる研究者(ユーザー)への利便性の向上にも繋がります。
締めくくりとしてNAC委員から、中性子源・ミュオン源の開発、各装置の整備状況について、単なる復旧を超える整備・開発に対し高い評価をいただきました。一方で、実験を行いやすくするため、試料を準備するための実験準備室やユーザー用の施設などについて、改善を望む提言が示されました。