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キログラムの再定義へ アボガドロ定数を高精度で計測

物構研トピックス
2012年3月13日

独立行政法人・産業技術総合研究所(理事長 野間口 有)計測標準研究部門(研究部門長 三木幸信)は、フランス、イタリア、オーストラリア、ドイツ、イギリス、アメリカ合衆国、欧州委員会の計量標準研究機関との国際研究協力(アボガドロ国際プロジェクト)により、アボガドロ定数をこれまでより一桁良い精度である3.0×10-8で決定しました。

長さや、質量の単位は、人工的に作られた「原器」と呼ばれるものを基準に決められていました。しかし、人工物は経時変化を起こすおそれがあるため、普遍的な物理量を基準にする方法に変わってきました。長さの単位であるメートルは、かつてはメートル原器で定義されていましたが、現在では「真空中で光が1/299792458秒に進む距離」と決められています。ところが、質量の単位キログラムだけは、まだ人工物である国際キログラム原器が基準になっています。そこでキログラム原器に代わる普遍的な物理量の候補として、アボガドロ定数やプランク定数などを基準とする改訂が検討されています。アボガドロ定数は、ある物質1モルに含まれる原子や分子などの総数です。この定数を正確に決めることができれば、キログラムを原子1個の質量に基づいて定義することが可能になります。

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超高分解能結晶格子評価システムに使用されている精密ゴニオメーター

アボガドロ国際プロジェクトでは、2007年にシリコンの同位体のひとつである28Siだけでできた単結晶を完成させました。この結晶から研磨した球体の密度と、結晶の格子定数、モル質量を正確に測定することにより、アボガドロ定数を高い精度で決定します。結晶の格子定数とは原子間の距離にあたり、この測定にあたって、物構研の張小威(ちゃん・しゃおうぇい)研究機関講師らは、超高分解能結晶格子評価システムを開発しました。このシステムを用いて フォトンファクトリーのビームラインBL-3Cで測定された結晶中の格子定数の均一性の評価は、今回の成果において大きな役割を果たしています。

これを受け、2011年10月に開催された国際度量衡総会において、国際キログラム原器を将来廃止し、基礎物理定数によるキログラムの再定義を実施する方向性を示す決議が採択されました。人工物に頼らない質量の基準の確立が現実的になろうとしています。


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