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KEK-TRIUMF 超低速ミュオン技術交流会開催

物構研トピックス
2012年3月13日

3月8、9日、カナダのトライアンフ研究所(カナダ国立素粒子原子核研究所、TRIUMF)にて超低速ミュオン・ワークショップが開催されました。KEKとTRIUMFでは、二研究所間の協力をより密接なものにすることを目的として一昨年より毎年シンポジウムを開催しており、そこでは超低速ミュオンについても具体的な協力について可能性を探ることが提案されています。今回のワークショップは、関係する科学研究費・新学術領域研究「超低速ミュオン顕微鏡」(領域代表:鳥養映子)の主要メンバーや、低エネルギーミュオン実験施設を持つポール・シェラー研究所(PSI、スイス)の研究者にも呼びかけ、主にビームラインや実験装置の技術的側面に関する情報交換を目的として行われました。

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ワークショップの様子


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発表する三宅康博KEK物構研教授

素粒子の一つであるミュオンを利用する超低速ミュオンは、物質の内部情報をナノメートル単位で観測できるプローブです。J-PARC物質・生命科学実験施設(MLF)では、KEKにより超低速ミュオン用のビームラインであるUライン(Ultra Slow Muon Beamline)の建設が行われており、Uラインからの大強度低速ミュオンビームを「超低速化」する装置についても昨年より新学術領域研究グループによる整備が始まっています。一方、TRIUMFでは長年にわたり不安定原子核の低速ビームを用いたβNMRという実験手法の開発を行っており、これと超低速ミュオン利用とは技術的に共有する部分も多いため、相互の技術向上のための情報・意見の交換が行われました。

初日は、クルッケン(Kruecken)TRIUMF研究部門長と下村理KEK物構研所長それぞれから挨拶、各研究所の紹介があり、セッションが始まりました。午前中のセッションではPSIの低エネルギーミュオン施設、KEK側で建設中の施設全体の紹介に続き、超低速化の初段である熱ミュオニウム*1発生に関連する講演が行われました。次いで行われた午後のセッションでは、ミュオニウムのレーザー励起による電子脱離、ビーム輸送、及びミュオン・スピンの制御方法についての講演が行われ、活発な議論が行われました。
二日目には、超低速ミュオンを用いて薄膜・微小試料の研究を行う際に用いられる実験装置・手法を中心に発表が行われました。βNMRの装置に加え、PSIで用いられている低エネルギーミュオン用分光器の例が示され、細かな部分に至るまで様々な議論が行われました。

なお、現在建設中のUラインは2012年秋に完成する予定です。

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用語解説

  • *1 熱ミュオニウム
  • 正の電荷をもったミュオンμ+と電子がペアになった状態(水素原子の陽子を正ミュオンに置き換えたものに相当)をミュオニウムといい、熱エネルギー程度の運動エネルギーをもったミュオニウムを熱ミュオニウムという。
    MLFの超低速ミュオンビームでは、約2000 Kの高温に加熱したタングステン表面から自然に放出されるミュオニウムを利用、 エネルギーは約0.2 eV程度である。

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