3月26日、日本中間子科学会にて若手奨励賞の表彰式が行われ、KEK物構研の牧村俊助氏が受賞しました。この賞は、中間子科学の発展に貢献しうる優秀な論文を発表した若手会員に贈られるものです。
受賞対象となったのは「大強度陽子ビームのためのミュオン生成標的の研究」で、ミュオン生成標的の開発による平成21年度KEK技術賞に続く受賞となります。J-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)で利用されているパルス状ミュオンは、大強度陽子加速器から入射されるパルス状陽子ビームを、ミュオン生成標的(黒鉛材)に照射することによってパイオンを生成、その崩壊によって得られます。その生成標的は黒鉛の結晶からできていますが、陽子ビームが照射されると、ビームによる衝撃と高密度の熱が発生するため、これを効率的に除去する必要があります。牧村氏は、冷却のため、黒鉛の周囲に銅のフレームをつけ冷却することを考案。さらに、黒鉛と銅の熱膨張率の差を吸収するため、チタン緩衝材を挿入し、黒鉛と銅フレーム間のロウ付け法を開発しました。
また、大強度陽子ビーム照射によって黒鉛は損傷・放射化していきます。高い保守性並びに安全性を維持し安定的な運用を行うには、ミュオン標的劣化を評価し、交換する計画・試験が必要です。牧村氏は、遠隔操作による交換を可能にする真空容器及び関連機器の設計製作を行い、ミュオン標的に関する設計、開発、製作、試験、運転、保守の全ての作業を主導し成功させました。また、黒鉛材の中性子照射による放射化損傷を測定、ミュオン標的の交換作業計画に必要な寿命評価する方法を確立させました。
これらの業績は、外国の施設で多くの研究者・技術者が難問として取り組んできた課題であり、これまでに明確な解決法はありませんでした。上記の成果は今後大きな波及効果を持つと期待されています。