ノースウェスタン大学(米国)、群馬大学、東京大学物性研究所、理化学研究所を含む国際共同研究チームは、炭素結晶であるグラフェンを可逆的に酸化する新しい方法を開発、走査型トンネル顕微鏡( STM )とフォトンファクトリー(PF)のX線光電子分光によって確かめました。
図1 SiC単結晶表面に作製したグラフェンのSTM像
酸化前(左)と原子状酸素による酸化後(右)。右図で観察される突起は、グラフェンに反応した酸素を示す
図2 KEK-PFのBL13Aで測定された光電子分光スペクトル
SiC単結晶表面に作製したエピタキシャル・グラフェン(黒)、原子状酸素によるエポキシ化(赤)、260℃の加熱による清浄グラフェンの再生(青)、ピーク位置から酸化物がエポキシ種であることが同定された。
グラフェンは炭素原子1層が6角形格子を形成するハニカム格子状のシートで、電気伝導、熱伝導が非常に高いなど、物理的・電子的に新奇な特性を示します。このため次世代エレクトロニクスへの応用が期待されており、電子デバイスなどに利用されているシリコンの代替材料として注目されています。しかし、シリコンのような半導体とは異なり、純粋なグラフェンはバンドギャップがゼロのため電子的に電流をオフにすることが難しく、グラフェンの電子的性質の制御が求められていました。
グラフェンの電子的性質の制御には、1940年代に開発されたハンマー法を用いてグラフェン表面を酸化する方法が広く用いられていますが、強酸性の化学薬品を使うこと、できたグラフェンの酸化物が化学的に不均一で不可逆であることが問題となっていました。研究チームでは、超高真空チェンバー内に酸素ガスO2を導入し、タングステンのフィラメントを1500℃まで熱することで単体の酸素原子Oを発生させ、グラフェン格子に均一に入射、反応させることに成功しました。酸化されたグラフェン表面をSTMおよびPFのビームラインBL-13AのX線光電子分光を用いて調べたところ、均一性(図1)と熱的可逆性(図2)が確かめられました。
この制御法の開発は、シリコンに代わるグラフェン基板による高性能デバイス探索への一歩であり、高速で薄型軽量なフレキシブル電子デバイスへの応用が期待されます。
の成果は英国科学雑誌Nature chemistryに掲載されました。
Md. Zakir Hossai et al., Nature Chem. 4, 305-309 (2012) doi:10.1038/nchem.1269