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レアメタルフリーの新規電極材料開発に成功

物構研トピックス
2012年5月 9日
図1 ナトリウムイオン電池の動作原理模式図

東京理科大学の薮内直明講師、駒場慎一准教授らの研究グループは、ナトリウムイオン電池用電極材料としてレアメタルを必要としない新規鉄系層状酸化物の合成に成功しました。

これまで駒場准教授らの研究グループは、現在高性能電池に広く用いられているリチウムの代わりに、資源が豊富なナトリウムを電気エネルギー貯蔵に利用するという基礎研究を2005年から進めてきました。今回、東京理科大学の研究グループは、株式会社GSユアサと共同で、新規鉄系層状酸化物の合成に成功し、鉄、マンガン、ナトリウムを組み合わせることでレアメタルフリーな電池用正極材料を実現、その構造をフォトンファクトリーのビームラインBL-7C等で解明しました。

ナトリウムイオン電池の陽極は、酸素と鉄、マンガンなどの金属が層状に重なった構造をしています(図1)。この層の隙間にナトリウムイオンが出入りすることで、充放電が行われます。充電時に価数変化と共に層の間隔が変化する構造相転移が観測され(図2)、これが充電特性の向上のポイントであることがわかりました。この構造変化を詳しく調べるため、BL-7CでXAFS(ザフス)実験を行い、鉄原子周囲の構造が歪むように変化し、鉄-酸素の原子間距離が劇的に近くなることがわかりました。充電時に大きく価数変化しているのはマンガンですが、鉄原子周囲の構造変化がマンガンの価数変化を助けていると考えられます。充電時のマンガンと鉄両方の価数変化・構造変化を捉え、総合的に解釈するXAFS実験が行えた成果と言えます。

図2:(左) 従来型層状酸化物と(右) 今回発見された新規Fe系層状材料の比較
ナトリウムイオンに対する酸素の配位環境が異なっていることがわかる。

さらにそのエネルギー密度は、これまでに報告されているナトリウムイオン電池用の正極材料として最も高い値であり、電池に求められる繰り返し特性にも優れることがわかりました。 これらの研究成果はリチウムやコバルト、ニッケルといったレアメタルを一切必要としない、高エネルギー密度の蓄電デバイスの可能性について世界に先駆けて示すものです。レアメタルフリーと高エネルギー密度が両立可能なナトリウムイオン蓄電池は、将来的には自然エネルギーの有効利用、スマートグリッド用の定置用大型電池、さらには電気自動車用の電源としての実用化が期待されます。
この成果は英国科学雑誌Nature Materialsオンライン版に4月29日(現地時間)に掲載されました。

>>プレスリリース(東京理科大学発表)


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