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ケイ素(Si)原子1層のシート"シリセン"の合成に成功

物構研トピックス
2012年6月14日

北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)のアントワーヌ・フロランス助教、ライナー・フリードライン准教授、尾崎泰助准教授、高村由起子准教授らのグループは、ケイ素(Si)原子1層から成るシリセンを、世界で初めてSiウェハー上に大面積で合成することに成功しました。

原子一層の結晶では炭素から成るグラフェンが知られており、電気伝導、熱伝導が非常に高いなど、物理的・電子的に新奇な特性を示します。このシリコン版ともいえるシリセンは、その安定構造が1994年に理論的に示され、世界的に研究が行われました。

図1 シリセンとグラフェンの模型

JAISTの研究チームは、シリコン基板上でジルコニウムの導電性セラミックス(ZrB2)薄膜を成長させた時、表面にシリセンが形成されることを発見しました。 そして、超高真空走査型トンネル顕微鏡(STM)およびKEKフォトンファクトリーのビームラインBL-18A における表面敏感内殻光電子分光※1によって構造やケイ素の結合状態を分析し、角度分解紫外光電子分光※2によってバンド構造を測定、さらに第一原理計算※3による構造と電子状態の解析を行いました。

図2 ZrB2(0001)上シリセンの安定構造の理論計算結果

その結果、ケイ素原子が「く」の字に連なったシリセンの二種類の座屈構造による、バンドギャップの形成が可能であることが分かりました。さらに座屈構造を変化させることによって、半導体から半金属まで性質を制御して合成できる可能性も示されました。
現在のシリコンをベースとするエレクトロニクスにおいて、シリセンは究極の薄膜材料であり、今後、絶縁体上への形成など応用研究への発展が期待されます。

この成果は米国物理学会の発行するPhysical Review Lettersに6月11日(現地時間)に掲載されました。

>>プレスリリース(北陸先端科学技術大学院大学発表)
>>Physical Review Letters "Experimental Evidence for Epitaxial Silicene on Diboride Thin Films"


用語解説

  • ※1 表面敏感内殻光電子分光

    物質に光を当てると、光電効果によって光電子が飛び出す。この光電子のエネルギー状態を測定することにより物質中の電子状態を調べる方法を「光電子分光」と言い、特に試料表面の感度をあげ(表面敏感)、さらに内殻の電子の情報を調べるものを「表面敏感内殻光電子分光」という。

  • ※2 角度分解紫外光電子分光

    光電効果によって試料から飛び出した光電子のエネルギーの放出角度依存性を測定することにより物質中の電子状態(運動量)を調べる方法を「角度分解光電子分光」と言い、特に紫外光を用いて行うものを「角度分解紫外光電子分光」という。

  • ※3 第一原理計算

    量子力学の原理(第一原理)に基づいた電子の振る舞いに、原子の熱振動の様子(分子動力学)を取り入れた計算方法。


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