東京工業大学の尾関智二准教授らの研究グループは、モリブデン原子132個と酸素原子504個などからなる、直径約3 nm(ナノメートル、1 nm=10億分の1 m)のポリオキソメタレートイオンがカゴメ格子状に配列した化合物の合成に成功しました。
図1 ポリオキソメタレートイオン
[MoVI72MoV60O372(CH3COO)30(H2O)72]42-の構造
ポリオキソメタレートは、モリブデンやタングステンなどの遷移金属と酸素などからなる分子性化合物で、多彩な構造をもち、その構造に起因する特異な触媒作用や磁性など、新奇な化学的特性を示します。特にモリブデン原子132個などから成るポリオキソメタレート(図1)は、直径約3 nmのサッカーボールに似た構造を示すことから興味が持たれています。この球体が作る結晶構造はこれまでに何度も解析されてきましたが、全てポリオキソメタレートイオンが最密充填※1の形に配列した構造をとっていました。これはちょうど、サッカーボールの模様を無視して詰め込んでいった状態に対応します。
今回、東京工業大学の研究グループは、「サッカーボールの白い六角形の面同士を貼り合わせた場合、最密充填構造は得られない」ということに着目し、ポリオキソメタレートイオンの特定の部位同士をつなぎ合わせて結晶化させることを試みました。負の電荷同士のポリオキソメタレートイオンをつなぎ合わせるため、両者の間に正の電荷を持つストロンチウムを入れ合成したところ、今までとは異なる結晶が得られました。その構造をKEKフォトンファクトリーのビームラインAR NW2Aの単結晶X線回折計を用いて調べたところ、ポリオキソメタレートイオンがカゴメ格子状に配列した構造が確かめられました(図2)。
図2 今回合成された[MoVI72MoV60O372(CH3COO)30(H2O)72]42-によるカゴメ格子構造
図2に見られるように、直径約3 nmの空間が結晶を貫いています。このようなナノサイズ空間の中では、分子は通常とは異なる挙動を示すことが知られています。この結果は、ポリオキソメタレートイオンを用いたナノサイズ空間設計の可能性を示しており、ポリオキソメタレートイオンの持つ触媒作用や磁性などと組み合わせることにより、新たな機能を持つ物質の開発につながると期待されます。
Dalton Transactions Volume 41, Issue 33の表紙
この成果は英国王立化学会の論文誌Dalton TransactionsのHot Communication(注目論文)に選ばれ、Volume 41, Issue 33の表紙に選ばれました。
>>Dalton Transactions "Crystallization of a Keplerate-type polyoxometalate into a superposed kagome-lattice with huge channelss"
同じ大きさの剛体球を、空間内に最も密に配列すること。配列のしかたの違いによって、立方最密充填構造、六方最密充填構造がある。