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ウイルスゲノムRNAの複製に不可欠な分子機構を解明

物構研トピックス
2012年8月14日

産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門RNAプロセシング研究グループの富田 耕造 研究グループ長らは、ウイルスゲノムRNAの複製開始や分解防止を司る、アデノシンがウイルスゲノムRNA末端に付加されるメカニズムを解明しました。

RNAウイルス※1は感染した宿主細胞内でウイルス自身のRNA合成酵素によってウイルスゲノムRNAを複製し、ウイルスを増殖させます。ウイルスゲノムRNAの複製は、まずウイルスのRNAを鋳型としてRNAが合成され、その合成されたRNAを鋳型として、更にRNAが合成、複製されます。
今回研究対象としたQβウイルス※2のRNA合成酵素は、鋳型を用いてRNAを合成する酵素ですが、合成の最後に、鋳型に依らない余分なRNA配列であるアデノシンを付加します。この配列は、ウイルスゲノムRNAの複製の開始や、感染宿主内のRNA分解酵素によるウイルスゲノムRNAの分解を防ぐために必要であることが知られていましたが、どのように付加しているのか、そのしくみは30年以上明らかにされていませんでした。

研究チームは、このRNA合成酵素が最後にアデノシンを付加した後の状態と、その直前の状態(鋳型によるRNA合成が終了した状態)の2種類の酵素-RNA複合体の構造をKEKフォトンファクトリーのビームラインBL-17Aを用いてX線結晶構造解析し、得られた立体構造から生化学的解析を行いました。

鋳型依存的なRNA合成酵素複合体による、RNA合成反応終結構造

その結果、鋳型によるRNA合成終了時に、鋳型RNAと複製されたRNAが2本鎖のまま移動することで、RNAを合成するRNA合成酵素の触媒ポケットが動き、ATP(アデノシン三リン酸)が結合しやすい形に変形していることが分かりました。そして変形したポケットにATPが収まり、複製されたRNAの末端にアデノシンを付加させるという、RNA合成酵素とRNAの両方が協力し合って鋳型を使用しないRNA合成を行っていることを解明しました。

この合成方法は、他のRNAウイルスでも同様のメカニズムがあると予想され、この解明により正しいRNA合成の終結を阻害することを利用した抗ウイルス薬剤など、新しい医薬品の開発へとつながることが期待されます。

この成果は米国の科学雑誌Structureオンライン版に8月9日(現地時間)に掲載されました。

>>プレスリリース(産総研HP)

Publication
>>"Mechanism for Template-Independent Terminal Adenylation Activity of Qβ Replicase" Structure, 09 August 2012


用語解説

  • ※1 RNAウイルス

    遺伝情報が記載されているゲノムをRNA(Ribonucleic Acid、リボ核酸)としてもつウイルス

  • ※2 Qβウイルス

    一本鎖RNAをゲノムとしてもち、大腸菌に感染して増幅するウイルスの一種。このウイルスに感染すると、大腸菌は溶菌し、死滅する。


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