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中性子の自在な加速制御に成功

物構研トピックス
2012年9月18日

名古屋大学の清水裕彦教授(元KEK物構研教授)、KEK加速器研究施設の有本靖助教(元KEK物構研特任助教)、九州大学の吉岡瑞樹助教(元KEK物構研特任助教)、京都大学、理化学研究所および仏ラウエ・ランジュバン研究所の研究グループは、磁場によって中性子の速度を精度よく制御し、中性子の利用効率を向上させる手法を開発、実証しました。

加速器から作り出される中性子ビームは、物質の構造解析やがん治療など様々な分野で利用されています。 陽子や電子などの電荷を持つ粒子は、電場を用いて加速、集束といった制御ができますが、電荷を持たない中性子は、電場による運動の制御ができません(図1)。 その代わり、中性子は小さな棒磁石としての性質(磁気モーメント)を持っており、磁場を利用して運動を制御することができます。 実際、これまでにも六極磁場を利用して中性子ビームに横方向の力を与え、レンズのようにビームを集束させることに成功しています。

図1:荷電粒子は電場で加速したり磁場で制御することができますが(上)、中性子の制御はこれまで難しく、利用効率は高くありませんでした(下)。

この力を進行方向に用いれば、中性子を加減速することが出来ます。通常、たくさんの中性子が塊りとなっているパルスビームの中には、速度の速いもの、遅いものとバラつきがあり、密度の高かった中性子の塊りは時間とともにばらけてしまい、密度が薄くなってしまいます。
今回、この中性子のパルスビームの経路上に磁場の勾配を設けることで、速いものを減速(または遅いものを加速)する実験を行いました。単純に磁場勾配を通過させるだけでは磁場への入口側と出口側で勾配が反転するため、働く力の積算が帳消しになり、エネルギー変化(=速度変化)の総量がゼロになりますが、中性子の通過最中に交流磁場によって磁気モーメントを反転させ、 中性子からみた磁場勾配が帳消しにならないようにすると、正味のエネルギー変化を起こさせることができます(図2)。今回、勾配磁場と交流磁場を組み合わせることにより、入ってくる中性子の速度に応じて加減速の大きさを自在に制御できることを実証しました。

図2:勾配磁場と高周波磁場の組み合わせによって中性子を加減速し、空間的に集束させることに成功しました。

これにより、進行方向に広がっていた中性子を空間的・時間的に集束させることに成功しました。 これを用いれば実験に必要な位置に中性子を高密度で集めることができ、利用効率を格段に向上することができます。研究グループでは、高密度に集めた中性子ビームを利用して、 素粒子物理学で重要なテーマである時間反転対称性の破れと関係する、中性子の電気双極子モーメントの測定を行うことを計画しています。この実験には中性子密度が 測定精度の向上の鍵になっているため、今回の成果が活用できると期待されています。

 

図3:今回の実験で得られたデータ。中性子が塊になって検出器に入り、ピークになっている事がわかります。

図4:研究グループのメンバー。後ろに見えるのが中性子加減速器本体。

本研究は、文部科学省の科学研究費補助金および量子ビーム基盤技術開発プログラム、 山田科学振興財団研究援助による支援を受けて実施、KEK物質構造科学研究所の中性子共同利用S型実験課題(2009S03)として採択、遂行されました。
この成果は米国物理学会誌 Physical Review Aオンライン版 、8月23日(現地時間)に掲載されました。

Publication
>>Demonstration of focusing by a neutron accelerator


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