9月20日、第61回日本分析化学会の表彰式が行われ、東京理科大学の中井 泉教授が学会賞を受賞しました。
この賞は、分析化学に関する貴重な研究をなし、論文発表した者の中から、特に優秀なものに対し贈られるものです。受賞対象はとなった研究は「 革新的X線分析技術の開発と物質史への応用 」で、この中のX線イメージングや蛍光X線分析※1、XAFS※2分析にはフォトンファクトリー(PF)が利用されています。
中井氏は放射光X線分析を始め、新しいX線分析技術を、従来使われてこなかった法科学分析や文化財分析などに応用し、さまざまな方法論を開発してきました。1998年の和歌山毒物カレー事件では、亜ヒ酸の微量成分を分析(SPring-8およびPF)、組成特徴が最重要物的証拠として最高裁判決に採択され、放射光を科学捜査に有用であることを世界で初めて示しました。
また、放射光による非破壊分析を貴重な文化財の分析に用い、パイオニア的成果を創出しています。放射光マイクロビームを用いた蛍光X 線分析イメージング(PFビームラインBL-4A)によって、古代エジプトのモザイク・ガラスの複雑な文様と元素組成の対応を明瞭に可視化、XAFS分析によって着色元素の化学状態を調べ、モザイク・ガラスの製法まで解明しました。特に持ちだすことが難しい海外の史料については、ポータブル分析装置を開発し、分析を行いました。
図1 古代エジプトのモザイク・ガラスの放射光マイクロビーム蛍光 X 線イメージング
さらに、蛍光X線分析、XAFS分析などを組み合わせ、環境科学にも応用しました。水銀中毒ラットの脳組織の分析や、海洋生物に蓄積されたバナジウムの化学状態を生きたまま観測したり、植物による重金属汚染土壌を浄化するメカニズムの解明など、放射光X線分析の可能性を広げました。これら分析技術の開発に加え、1998年より蛍光X線分析と粉末X線解析の講習会を開催し、分析技術の普及に貢献していることも高く評価されました。
X線照射により内殻電子が励起されてできた空孔に外殻の電子が遷移する際に放射される蛍光X線を測定することにより、微量元素分析や化学状態分析を行う手法。
X線吸収微細構造(X-ray Absorption Fine Structure) 分光法。試料にX線を照射すると、試料に含まれる元素に固有なエネルギーのX線が吸収される。照射するX線のエネルギーを変えながら物質による吸光度を測定する実験方法で、注目した原子周辺の局所的な構造や化学状態を知ることができる。分析する試料は結晶になっていなくても良く、軽元素以外は大気中でも測定可能なため、測定できる試料の自由度が高く、電池材料や触媒はもちろん、最近では土壌や植物など、環境物質の分析にも広く使われている手法である。