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山田悟史助教ら、第11回日本油化学会オレオサイエンス賞を受賞

物構研トピックス
2012年10月16日

左から:受賞した菱田氏、山田氏


山田 悟史(のりふみ)KEK物構研助教、および菱田 真史(まふみ)筑波大学数理物質系 助教が第11回日本油化学会オレオサイエンス賞を受賞しました。この賞は日本油化学会が刊行する学会誌オレオサイエンスに掲載された総説の中から特に優れたものに授与されるもので、本受賞は「添加剤により誘起される巨大単層膜ベシクルの形成メカニズム」に関する総説が認められたことによるものです。

山田氏らは、生物の体を構成する細胞の外殻、細胞膜の主成分であるリン脂質に着目した研究を行っています。リン脂質は水となじみやすい部分(親水部)と水となじみにくい部分(疎水部)を持っているため、水に溶かすと疎水部が水に触れないよう、細胞膜のような二分子膜構造を形成します。また、条件によっては細胞膜のようにμmスケールの巨大な単層膜の小胞(ベシクル)も作成でき、細胞のモデルとして利用する研究が数多く行われてきました。
一般的にリン脂質の膜間には強い引力が働くため、リン脂質ベシクルは多層膜になり易い性質をもっています。ところが、グルコースなどの糖をリン脂質に混ぜてからベシクルを作成すると大きな単層膜ベシクルができ易いということが分かってきました。
リン脂質の膜間に働く斥力によって単層膜が形成される研究をしていた山田氏はこの問題に対し、ベシクルの形成過程に関する研究を行っていた菱田氏と議論した結果、グルコースが生み出す浸透圧※1という力によって膜が1枚ずつ剥離しやすくなり、きれいな単層膜ベシクルが形成されると予想しました。これを確かめるため、X線・中性子を用いたnmスケールの構造観察と光学顕微鏡によるμmスケールの構造観察を行い、まさに予想通りの結果を得ることに成功したのです。

今回、山田氏らが発見した浸透圧による単層膜ベシクル形成のメカニズム解明は細胞のモデルを作成する上で非常に有用なものですが、残念ながら実際の生体内で起きている現象を説明するものではありません。しかし、原始生命の誕生においては鉱物の表面上で生じる化学反応によって生成された有機物が生命を生み出したという説もあります。単層膜ベシクルの形成を誘起する浸透圧はこのような状況下でも生じることから、今回明らかになったメカニズムはもしかしたら原始生命の誕生とも関係しているのかもしれません。


用語解説

  • ※1 浸透圧
  • 小さな分子だけを通す膜(半透膜)で隔てられた2室に濃度の異なる溶液を入れると、膜を通って濃度の薄い方から濃い方へ溶媒(食塩水でいう水)が移動する。この時の膜にかかる圧力を浸透圧という。

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