東京大学大学院の北潔教授、京都工芸繊維大学大学院の原田繁春教授らの研究グループは、アフリカ睡眠病の治療薬候補化合物と標的タンパク質の複合体構造を、フォトンファクトリー(PF)およびSPring-8を利用して解明しました。この化合物は感染したヤギやマウスを完全に治癒できる化合物で、今回得られたタンパク質立体構造情報に基づいて、より優れた治療薬の設計が期待されます。
アフリカ睡眠病は、中枢神経系を侵し最後は昏睡状態になって死に至る致死性の感染症です。ツェツェバエが媒介する寄生性原虫アフリカトリパノソーマの感染によって起こり、アフリカの貧困層を中心に年間約3万人もの死亡が報告されていますが、先進諸国の関心が薄く、安全で効果的な薬が開発されていません。
アフリカトリパノソーマがもつシアン耐性酸化酵素(TAO)は、アフリカトリパノソーマの生存に必要なエネルギーを産み出す重要酵素です。TAOは、ヒトなどの哺乳類には無いタンパク質なため、その働きを阻害しても副作用を引き起こしにくく、薬剤標的に適しています。北教授らは、これまでの研究でアスコフラノンという抗生物質がTAOを強く阻害することを見出していました。しかし、ドラッグデザインに不可欠なTAOの立体構造が全く不明でした。
そこで北教授は原田教授と共同で、TAOやTAOにアスコフラノン誘導体が結合した構造を、PFのビームラインBL-17Aを用いてX線結晶構造解析しました。そして、膜表在型の2核鉄タンパク質として初めての立体構造を明らかにしました。TAOは、逆平行に並んだ6本の長いヘリックスからできており、そのうちの4本が束ねられてできた構造の中に酵素反応の中心的役割を担う2核鉄が独特の配位様式で結合していました(図1)。また、二量体の形成やそれが膜に結合している様式も明らかにできました。
さらに、アスコフラノン誘導体との複合体構造から、その阻害機構を詳細に解明しました。アスコフラノン誘導体は、二核鉄の近くにある疎水性ポケットに結合して、TAOのアミノ酸残基と水素結合やファン・デル・ワールス相互作用を形成してTAOに結合していました(図2)。
本研究成果は、米国科学誌Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)の3月4日オンライン版に掲載されました。
論文名
"Structure of the trypanosome cyanide-insensitive alternative oxidase" doi:10.1073/pnas.1218386110
京都工芸繊維大学プレスリリース
>>アフリカ睡眠病治療薬の候補化合物と標的タンパク質との複合体構造の解明