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21番目のアミノ酸「セレノシステイン」の合成メカニズムを解明~星形の超巨大複合体~

物構研トピックス
2013年4月 9日

理化学研究所生命分子システム基盤研究領域の横山茂之領域長、東京大学分子細胞生物学研究所の伊藤弓弦助教らの研究グループは、 バクテリアにおける「21番目のアミノ酸」セレノシステインの合成メカニズムを解明しました。

セレンは、ヒトからバクテリアに至る幅広い生物にとって微量成分として不可欠な元素で、周期表では酸素やイオウと同族で、 イオウより反応しやすい元素です。生体内では主にセレノシステイン(Sec)とよばれるアミノ酸に存在します。 このアミノ酸を含むセレン含有タンパク質は、セレンの高い反応性を利用して、抗酸化作用など重要な機能を発揮します。

Secは、タンパク質を構成する標準的な20種のアミノ酸に加えて、「21番目のアミノ酸」として知られています。 Secは他の標準的なアミノ酸と同様に、アミノ酸をリボソームに運搬する専用のtRNAが存在します。 標準的なアミノ酸のtRNAではそれぞれに対応するアミノ酸が結合しますが、tRNASecは、いったん別のアミノ酸「セリン (Ser)」が結合し、 その後にセリンがセレノシステインに変換されるという経路を取ります。この変換メカニズムはヒトなどのグループ(ヒト型) とバクテリアのグループ(バクテリア型)では異なっています。ヒト型は2段階の反応で変換されるのに対し、 バクテリア型は1つの酵素「SelA」により1段階で変換されます。研究グループは2010年にヒト型の変換メカニズムを明らかにしましたが、 バクテリア型のメカニズムは、SelAが巨大タンパク質であり、その構造解析が技術的に困難なために大きく遅れていました。

SelAとtRNASecの複合体の構造。星形の10量体構造に、合計10個のtRNASecが結合している。

研究グループは、バクテリアのSelA単体、およびSelAとtRNASec複合体の結晶構造を、 KEKフォトンファクトリーのBL5A、BL17A、NW-12AおよびSPring-8のBL41XUを用いて解析しました。 その結果、SelAは、二量体が5個星形に配列した10量体構造を持つことがわかりました。 さらに、tRNASecとの複合体は10個のtRNASecがSelAに結合しており、総分子量が81万の超巨大複合体を形成していました(図)。 タンパク質合成関連酵素の中では、リボソーム30Sサブユニットに匹敵するほど例外的な巨大な構造で、なぜこのような構造を取るのか調べたところ、隣り合う2個の二量体に含まれる4個のサブユニットが、 1つのSer-tRNASec複合体に対して、協力して4つの異なる作業を担うことがわかりました。 このためには二量体の配置が重要であり、これを実現するために正五角形型の星形構造を生み出していると考えられます。 また、反応性の高いセレンを間違って導入することがないように、SelAは星形の構造から突出した領域でtRNASecを正確に識別していることがわかりました。

今回解明されたバクテリア型のSec合成システムは、ヒト型の酵素の構造や反応メカニズムとは全く異なるもので、これらの酵素は別々の先祖から、 独立にSecを合成できるように進化したという、大変興味深いことが分かりました。バクテリア型のセレノメチオニン合成メカニズムを解明したことは、 今後、セレンの自在な導入によって天然の酵素の機能を上回る能力を持つ酵素の創成や、 セレン欠乏を原因とする疾患の研究などに大きく貢献することが期待されます。

本研究成果は、ターゲットタンパク研究プログラム、および、文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて行われ、 米国の科学雑誌Scienceの4月5日号に掲載されました。

 理化学研究所プレスリリース
論文 The decameric SelA・tRNASec ring structure reveals the mechanism of bacterial selenocysteine formation


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