平成25年度科学技術分野の文部科学大臣表彰の受賞者が発表され、KEKのフォトンファクトリー(PF)を共同利用した研究により、相馬 清吾氏(東北大学 原子分子材料科学高等研究機構)、二瓶 雅之氏(筑波大学)、沼田 倫征(ともゆき)氏(産総研 バイオメディカル研究部門)、若林 裕助氏(大阪大学)が若手科学者賞を受賞しました。
この表彰は、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者について、その功績を讃えることにより、科学技術に携わる者の意欲の向上を図り、もって我国の科学技術水準の向上に寄与することを目的に行われています。
PFを共同利用した研究による受賞は、次の4名です。
相馬 清吾 氏(東北大学原子分子材料科学高等研究機構 助教)
「スピン分解光電子分光装置の開発と機能材料の電子構造の研究」
二瓶 雅之 氏(筑波大学数理物質系 准教授)
「多重外場応答性金属多核錯体の創出と機能発現に関する研究」
沼田 倫征 氏(産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門 主任研究員)
「転移RNA修飾酵素の構造と機能の研究」
若林 裕助 氏(大阪大学大学院基礎工学研究科 准教授)
「微視的構造観測による機能材料表面近傍における物性の研究」
相馬氏は、スピントロニクス研究に必要な電子材料の電子構造を実験的に決定する「スピン分解光電子分光」の装置開発を行いました。これまで光電子分光法では、電子スピンの検出が極めて困難でしたが 超低ノイズ型のモット検出器や、高輝度キセノンプラズマ放電管などの要素技術を開発、組み込むことで分解能を向上させました。この装置を使いトポロジカル絶縁体などのスピン偏極度を高精度で決定しました。
二瓶氏は、単分子磁性(分子一つで磁石となる性質)を光で制御できる物質を世界に先駆けて開発しました。分子磁性の光変換の実現には、分子合成戦略の確立が課題でした。二瓶氏は、ヘテロメタル多核錯体における異なる電子状態間のエネルギー差を論理的に制御する手法を確立し、PFでの測定により各電子状態を明らかにしました。 これは、分子回路に不可欠なスイッチング分子素子の新たな開発手法を提案するものであり、分子ナノテクノロジーの実現に大きく貢献するものです。
沼田氏は、遺伝暗号の解読に関わる転移RNAを修飾する酵素を同定、立体構造から機能を解析し、この酵素が行う触媒反応の仕組みを解明しました。転移RNAの修飾ヌクレオシドは、遺伝情報の正確な解読に重要なものです。また、修飾が欠損すると重篤な疾患を引き起こすことも知られており、疾患原因の究明が期待されます。
若林氏は、電子デバイスなどへの応用が期待される機能材料の構造を、0.01nm以下という精度で、非破壊かつ物質表面から内部まで連続的な観測に成功しました。 電子デバイスは、物質の表面近傍の性質を利用しており、この構造を原子レベルで決定することは、新しいデバイス開発に不可欠です。若林氏は、放射光の表面X線解析法を用い、 有機半導体の複雑な構造や、遷移金属酸化物の構造を決定し、物性起源を解明しました。