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マルチプローブで見る高分子ブレンドの脱濡れ

物構研トピックス
2013年6月 6日

京都大学化学研究所 金谷利治教授の研究グループは複数種類の高分子を混合した材料「高分子ブレンド」の薄膜が液滴化してしまう「脱濡れ」現象が、異種高分子の分離によって起きていることを、可視光・X線・中性子を組み合わせた観測によって、 しくみを明らかにしました。

図1: シリコン表面における高分子(ポリスチレン)薄膜の脱濡れ
均一に広がっている状態(左)から、徐々にシリコン表面が露出し始め(中)、最終的に高分子が液滴状態で点在した脱濡れ状態(右)となる

高分子はビニール袋やゴム、ブラスチックボトルなど我々の生活には欠かせない材料となっています。これらの素材は軽いだけでなく複数種の高分子を混合することによって高い機能性を持たせることが可能で、コーティングなどにも用いられています。 表面をきちんとコートするには、高分子ブレンドの薄膜が表面で弾かれて液滴になってしまう脱濡れを防ぐ必要があります。 そのため、高分子ブレンドが脱濡れするメカニズムを理解することで、優れたコート剤を開発する指針がえられると考えられており、盛んに研究されています。

図2: 高分子ブレンドの脱濡れを観測した結果と脱濡れが起きるメカニズムの模式図
光学顕微鏡では20分-30分の間に脱濡れによって表面が不均一になる様子が観測された。 一方、中性子非鏡面反射では10分-20分の間に異種高分子の分離による新たなピークが観測されている。 これは、脱濡れの前駆現象として高分子の分離が起きていることを示している。

金谷教授の研究グループは高分子ブレンドの薄膜が脱濡れする様子を光学顕微鏡、放射光施設SPring-8のX線反射率実験、およびJ-PARC物質・生命科学実験施設BL-16の中性子反射率実験によって観測、そのメカニズムを調べました。 可視光、X線、中性子では各波長が異なるため、観察できる対象・現象が異なります。例えば可視光はμmスケールの構造を観察するのに適していて、脱濡れが起きる様子を観察できます。一方、X線や中性子はnmスケールの構造を観察するのに適していて、 厚さ数十nmの薄膜表面が乱れていく過程を観測できます。
特に中性子は重水で目印を付ける「重水素化ラベリング」という手法により、高分子の種類を識別できるため、高分子ブレンドの内部で各成分の分布を観察できます。 また、中性子は非鏡面反射法という方法を用いることでμmスケールの平面構造も観察できます。
これらの観察結果を組み合わせた結果、最初に薄膜内部で高分子同士の分離が起こり、その後に脱濡れが起きることが明らかになりました。

今回の実験結果は高分子ブレンドの内部で異種成分が分離し、それによって脱濡れが誘起されることを強く示唆しています。 つまり、異種成分が分離しにくい高分子ブレンドができれば脱濡れを起こしにくくできる、と予想でき、高機能かつ安定な薄膜を作成する上での重要な指針になると期待されます。

本成果は米国の科学雑誌Macromoleculesの2013年5月21日(現地時間)オンライン版に掲載されました。
>>"Dewetting Process of Deuterated Polystyrene and Poly(vinyl methyl ether) Blend Thin Films via Phase Separation" DOI: 10.1021/ma400506f


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