4月3日、4日の2日間、KEKつくばキャンパスで理系女子キャンプが開催され、全国から女子高校生31名が集まりました。今年で3度目の開催となる理系女子キャンプは、理系分野を目指す女子高校生を対象に、理系女子という進路について考えるとともにKEKの施設見学などを通じてビッグサイエンスの現場を体験し、そこで活躍する女性研究者・エンジニア等と交流してもらうことを目的としたものです。
キャンプ初日、全体のイントロダクションが終わるとすぐに実験が始まりました。前回、前々回のキャンプでも行われた「たまご落とし実験」です。これは、与えられた材料を使って卵を保護する装置を作り、決められた高さから卵を割らずに落下させるというもので、11のグループに分けられた生徒たちが、チームワークの良さとアイデアを競いました。
用意された材料は、ストロー、画用紙、トランプ、アルミホイルなど、すべて私たちの身近にある日用品です。材料を繰り返し手元から落下させて動きを観察するグループ、入念に意見交換をするグループなど、進め方は様々。時々楽しげな笑い声が聞こえることもあり、和気あいあいと装置制作に取り組んでもらえたようです。最終的には、きわめて完成度の高い作品が出来上がりました。特に、床に衝突する際の衝撃を和らげる方法に注目した作品には大変独創的なものがあり、審査員一同の賞賛を集めました。
実験後には女性研究者と女子大学院生によるパネルディスカッションが行われました。特に、進路決定や大学・大学院での生活についての話題に対しては関心が高く、「大学院生の方々がどのような高校生活を送っていたのかや、今の学科に進んだきっかけ等を知ることができたので、これからの進路の参考になりました。」「普段はわからない、大学生活のことが聞けてとても参考になりました。また女性が活躍していることが実感できました。」などの声が聞かれました。
2日目は講義からスタート。3名の女性研究者が、自身の研究内容やキャリアパスについて話しました。
スタンフォード大学 SLAC国立加速器研究所の素粒子・宇宙物理学部門 ヘレン・クイン名誉教授は、英語で講演を実施。第二次世界大戦の時代のアメリカを生きた母、女性の社会進出がまだ珍しかったころに活躍されたご自身、そして現在働き盛りを迎えている娘と、3世代それぞれの女性の生き方を紹介しました。クイン氏は「特に評価された私の2つの論文は、ちょうど2人の子供の出産・育児をしていた時期に書いたもの。周囲の理解と協力のもとで、仕事と子育ての両立は可能です。」と実体験を交えて語りかけました。講義の合間には質疑や生徒たちどうしの話し合いの時間を挟み、生徒の皆さんの理解や発見を促しました。
講演後の施設見学では4班に分かれ、ライナック、SuperKEKB、Belle II、フォトンファクトリーを訪れました。
「卵落とし実験では卵を壊さないことが大事でしたが、KEKの実験では、素粒子をできるだけ高いエネルギーでぶつけて、壊れて出て来た粒子を測定し研究を行います。」と話すのはBelle II測定器の見学グループを引率した坪山氏。訪れた筑波実験室の展示室では、加速器の各コンポーネントやBelle 測定器に含まれる検出器をを見るだけでなく、手にとったり、重さを感じてもらいながら説明を行いました。さらに、改造中のBelle II測定器や加速器トンネルを見学し、本物のスパークチェンバーで宇宙線を観察することで、素粒子を身近に感じてもらえる施設見学ツアーになりました。
電子陽電子線形加速器では、加速器の見学の他、ミニチュアの偏向電磁石と4極電磁石の磁場測定実験を行い、磁場によって電子がどのように力を受けるかを学んでもらいました。また、凹凸レンズをつかった光の収束方法を体験する場面では、レンズを自由に並べてもらったところ、花のような芸術的な配置に組まれていたりなど、その発想の豊かさに引率の研究者も驚かされました。
見学終了後、一人ひとりに修了証が手渡され、キャンプは閉幕となりました。2日間という限られた時間でしたが、参加者の皆さんは積極的に交流し合い、中には休憩時間に指導係の先輩女子大学生に進路の相談をする姿も見られました。参加した生徒からは、「このキャンプに参加することで今まで知らなかった世界が広がった気がします。一つの分野でもいろいろな見方や考え方があることが分かりました。」「とてもすばらしい体験になりました。英語での話しも新鮮で少し難しかったけど、とても良い経験になりました。先輩方や先生方のようになれるようがんばりたいと思います!」と、ポジティブな感想をたくさん頂きました。
新しい環境にもすぐに馴染み、たくさんの学びを得てキャンプを修了していく生徒の皆さんは、非常にたくましく、頼もしく見えました。内容充実の理系女子キャンプ。来年はぜひ、あなたも参加してみませんか?