産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門の富田耕造氏(RNAプロセシング研究グループ長)、山下征輔氏(特別研究員)らは、タンパク質の部品であるアミノ酸と結合する、 tRNAの端(3' 末端)に普遍的に存在するCCA配列が核酸性の鋳型を用いないで付加されるしくみを放射光X線結晶回折などを用いて解明しました。
全ての生物には遺伝子DNAに記された遺伝情報を読み取って、タンパク質を作り出す「翻訳」システムが備わっています。これは生物にとって最も基本的な生命現象の一つです。遺伝情報とタンパク質の部品であるアミノ酸との橋渡しをするアダプターの役割をする分子が、トランスファーRNA(tRNA)です(右図)。
tRNAはDNAのコピーであるメッセンジャーRNA(mRNA)を読み、設計図に従ってアミノ酸を運ぶ役割をしています。 tRNAの3' 末端は全てCCA配列をもっており、アミノ酸を結合する重要な部分です。tRNA分子の大部分はDNA上の配列を鋳型として合成されますが、tRNAの3' 末端CCA配列はCCA付加酵素とよばれる酵素によって合成されます。このCCA付加酵素は設計図であるDNAやRNAの鋳型を用いることなく、定まった配列を合成することができる大変ユニークなRNA合成酵素です。しかしながら、その鋳型を用いない反応分子メカニズムの全貌は明らかにされていませんでした。
富田氏らの研究グループは、CCA付加酵素によるDNAやRNAの鋳型を用いない付加反応の動的反応過程の分子メカニズムの解明に取り組んできました。 今回、CCA配列の最初のCC配列が真正細菌由来のCC付加酵素によって合成される過程を、 いくつかの段階に分け、各反応を表した状態をフォトンファクトリーのビームラインBL-17A、1Aを用いて X線結晶構造解析を行いました。
その結果、酵素がCC配列を合成、付加していく過程で、tRNA分子がCC付加酵素の表面を動き、回転することが分かりました。 このtRNAの酵素上の移動と回転によって一つの活性触媒ポケットで 1番目のCと2番目のCが同じしくみで付加されていたのです。 また、CC配列の合成が終了すると、tRNAが更に後ろへ動くことにより酵素からtRNAが離れ、tRNAの末端のCC配列の合成を終結させる、 という一連の過程が分かりました(動画)。 このような、RNAが酵素上を移動して回転する様子をとらえた例は世界で初めてです。
本研究は、独立行政法人 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)「RNAと生体機能」【研究総括:野本 明男 微生物化学研究所長】、独立行政法人 日本学術振興会 最先端次世代開発支援プログラム 「RNA合成酵素の反応制御機構の解明」、基盤研究(A)「RNA 合成酵素複合体の機能構造解析」(ともに研究代表者:富田 耕造)の一環として行われました。