日本法科学技術学会第19回学術集会の2013年度奨励賞にフォトンファクトリーを利用している西脇 芳典氏(高知大学)が選出、表彰されました。 奨励賞は法科学(科学捜査)の発展に貢献しうる成果を発表した若手研究者(40歳以下)に授与されるものです。
受賞対象となった研究は、「放射光蛍光X線分析によるポリエステル白色単繊維の非破壊異同識別」です。 ポリエステル白色繊維は、綿と並んで衣服の構成繊維として使用される身近なものです。そのため、犯罪の証拠試料になることが多く、科学捜査上最も重要な試料の1つです。 ポリエステル白色単繊維は殺人・わいせつ・痴漢等の事件で、被害者と被疑者が接触した際に、相互に付着したり、現場に遺留したりします。 ごくわずかに残った単繊維は微細な上、非破壊での分析が強く求められます。 それは裁判において、分析が本当に正しかったを第三者が再度分析(再鑑定)できるように試料を保存するためです。 微細試料の非破壊分析の手法は限られており、ポリエステル白色単繊維の鑑定は困難です。
西脇氏は、フォトンファクトリーのビームラインBL-4Aを利用し、放射光蛍光X線分析をポリエステル白色単繊維に適用し、従来法と組み合わせ、研究を進めてきました。
ポリエステル白色繊維は、石油を原料とした液体を混合することで合成する化学繊維です。その時、触媒として使われる化合物(Ge、Sb、Ti、Mn、などの化合物)、顔料の酸化チタン(TiO2)がごく微量に含まれます。 これらは合成する工場によって異なるため、細かな配分まで分析できれば、ポリエステルの指紋のように扱うことができます。 しかし、これらの化合物は、サブppm*1~数ppmしか含まれていないため、非破壊で分析、検出することは困難でした。 西脇氏は、ポリキャピラリーX線レンズ*2を利用して集光した高輝度の放射光X線をポリエステル白色単繊維に照射して蛍光X線を計測し、 触媒由来の微量元素を検出することに成功しました。 本法による分析の再現性を確認し、異同識別法として十分に通用することを実証しました。
このように、西脇氏の挙げた成果は、科学捜査で重要でありながら、鑑定が困難であった試料について有用な新しい手法を開発したことが高く評価されました。 本法が実際の鑑定に採用され、社会の安全・安心に貢献することが期待されます。
parts per millionの略で、100万分のいくらであるかという割合を示す数値。
多数の細いガラスの管(キャピラリー)を束ねて作成したX線レンズ。 X線の屈折率は1よりわずかに小さいため、可視光のように光学レンズでは集光できない。そのため、X線を極めて平滑な平面に極低角で入射すると反射することを利用して集光する。