東北大学・JST ERATO磯部縮退π集積プロジェクトの磯部寛之教授の研究グループは、カーボンナノチューブにフラーレンがとり込まれた分子ピーポッドの固体状態の詳細な構造をフォトンファクトリーのBL-1、およびSPring-8のBL41XUを利用して解明しました。
「さやえんどう」の意味をもつピーポッドは、直径数ナノメートルのカーボンナノチューブ(CNT)の中に、炭素でできた球状のフラーレンが取り込まれたものです。 1998年に発見されて以来、構造の面白さ、他にはない物性と、バリエーションの可能性の豊富さから関心を集めてきました。 これまで研究グループでは分子レベルで構造が定まったピーポッド分子を開発し、CNTの構造と内部に閉じ込められたフラーレンの運動状態を調べてきました。 そして分子運動が活発な溶液状態でもフラーレンがCNTの外に抜け出さないこと、そしてCNT内で自転していることを発見してきました。 今回は、分子運動が抑えられた固体状態のピーポッドの解析を行い、核磁気共鳴で構造解析しました。その結果、-30度まで冷却してもCNT内のフラーレンは自転し続けていることを確認しました。その状態をX線回折で調べると、回転を急停止させられたフラーレンがバラバラの向きで止まっていることが観測されました(図1)。このような極低温までフラーレンが回転し続けられる理由として、CNT内壁に「つるつる」な面が存在し、ここに球状のフラーレンが閉じ込められることで、回転しやすい状態を作っていることがX線構造解析から分かりました(図2)。 CNT内壁の「つるつる」面は理論的に予測されていましたが、実験的に実証したのはこれが初めての例になります。また「つるつる」なカーボンナノチューブ内部に、球状分子を閉じ込めることで、極低温でも「クルクル」と回る分子ベアリングの可能性を明示した成果といえます。
掲載論文
PNAS; Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America
タイトル "Solid-state structures of peapod bearings composed of
finite single-wall carbon nanotube and fullerene molecules"
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