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ノーベル物理学賞~青色LEDの鍵、窒化物半導体の構造研究~

物構研トピックス
2014年10月 9日

2014年10月7日、スウェーデン王立科学アカデミーによるノーベル物理学賞が発表され、青色発光ダイオード(青色LED)を開発した赤崎勇博士、天野浩博士、中村修二博士の受賞が決まりました。

青色LEDの優れた発光特性の鍵である窒化物半導体は、青色LEDの他にも、ブルーレイディスクなどに使われている半導体レーザー、また、未来のエネルギーを担う人工光合成の開発にも使われていて、現在もその特性向上のための研究が盛んに行なわれています。

KEKフォトンファクトリーにおいても、名古屋大学の竹田美和博士、田渕雅夫博士のグループにより、赤崎博士、天野博士の研究室で作製された窒化物半導体試料の構造研究が行われました。半導体材料の特性向上には、原子レベルでの結晶成長の制御が必要であり、物質を原子レベルで観察できる放射光は、半導体開発には欠かせないツールです。研究グループでは、半導体界面の構造を原子1層単位で測定することのできるX線CTR散乱法*1、微量元素の周りの元素組成や結晶の歪みなどの情報が得られる蛍光EXAFS法*2などを複合的に用いて、窒化物半導体の特性発現のメカニズムに関して6報の論文を出版しています。


Crystal Quality and Surface Structure of Sapphire and Buffer Layers on Sapphire Revealed by Crystal Truncation Rod Scattering(CTR散乱法によって明らかになったサファイアとバッファー層の結晶品質および表面構造)
M.Tabuchi, N.Matsumoto, Y.Takeda, T.Takeuchi, H.Amano and I.Akasaki
J. Cryst. Growth, 189/190 (1998)

X-Ray Interference and Crystal Truncation Rod Observation of GaN and GaInN Layers Grown on Sapphire with AlN Buffer Layer(サファイア基板上の窒化アルミニウムバッファー層上に成長させた窒化ガリウム,窒化インジウムガリウムのX線CTR散乱法による表面観察)
M.Tabuchi, Y.Takeda, N.Matsumoto, H.Amano and I.Akasaki
Jpn. J. Appl. Phys., 38 (1999)

Characterization of Initial Growth Stage of GaInN Multi-Layered Structure by X-Ray CTR Scattering Method(X線CTR法による窒化ガリウムインジウムの多層構造の結晶成長初期段階のキャラクタリゼーション)
M.Tabuchi, K.Hirayama, Y.Takeda, T.Takeuchi, H.Amano and I.Akasaki
Appl. Surf. Sci., 159-160 (2000)

Characterization of Local Structures Around In Atoms in Ga1-xInx Layers by Fluorescence EXAFS Measurements(蛍光EXAFS法によるガリウムインジウム層中のインジウム元素周りの局所構造のキャラクタリゼーション)
M.Tabuchi, D.Katou, H.Kyouzu, Y.Takeda, S.Yamaguchi, H.Amano and I.Akasaki
J. Cryst. Growth, 237-239 (2002)

Atomic Scale Characterization of GaInN/GaN Layers Grown on Sapphire Substrates with Low-Temperature Deposited AlN Buffer Layers(サファイア基板上に低温で積層した窒化アルミニウムバッファー層上に成長させた窒化ガリウムインジウム/窒化ガリウム層の原子スケールでのキャラクタリゼーション)
M.Tabuchi, H.Kyouzu, Y.Takeda, S.Yamaguchi, H.Amano and I.Akasaki
J. Cryst. Growth, 237-239 (2002)

Crystalline Structure and the Role of Low-Temperature-Deposited AlN and GaN on Sapphire Revealed by X-Ray CTR Scattering and X-Ray Reflectivity Measurements(X線CTR散乱法およびX線反射率法によって明らかにされたサファイア基板上に低温で積層した窒化アルミニウムおよび窒化ガリウムの結晶構造およびその役割)
Y.Takeda, M.Tabuchi, H.Amano and I.Akasaki
Surf. Rev. Lett., 10 (2003)


◆用語解説

*1 X線CTR散乱法
X線の回折を利用した結晶構造解析法の一つ。三次元的に繰り返し構造を持つ結晶構造にX線を照射して生じたブラッグ反射から結晶構造を解析する手法である。平滑な結晶の表面では、表面に垂直な方向にのみ繰り返し構造がなくなっているため、ブラッグ反射を中心に垂直方向に伸びる散乱が生じる。このようなロッド(棒)状の散乱をCrystal Truncation Rod (CTR)散乱と呼び、表面構造の研究に用いられている。

*2 蛍光EXAFS法
X線の波長を変化させながらX線の吸収強度を測定する実験法で、X線を吸収する原子周辺の局所的な構造を定量的に決定できる。吸収されるX線の波長は元素ごとに異なるので、元素選択的な構造解析法として有効である。蛍光EXAFS法は透過X線の代わりに蛍光X線を測定する手法で、感度が高いため、特に微量な元素の局所構造解析に用いられている。


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