産業総合技術研究所 生産計測技術研究センターの大柳 宏之 招聘型外来研究員(兼KEK物質構造科学研究所 協力研究員)と山下 健一 主任研究員は、フォトンファクトリーの放射光を用い、これまで困難であった後期遷移金属の一種、銅(Cu)でナノクラスターを成長させる技術を開発しました。この技術は、放射光で原子を選択し局所的に還元する反応と化学反応を組み合わせた新しい方法。今回成長に成功した後期遷移金属ナノクラスターは、ナノ触媒、ナノインク、ナノ配線への応用への貢献が期待されます。
ナノクラスターは触媒などに利用されている微粒子で、最近では10-20個程度の原子で構成される超微粒子が注目されています。しかし、これまで鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などの後期遷移金属でナノクラスターを作成することは、溶液中でイオンが安定なため反応(還元反応)を制御してクラスターを安定化することが困難でした。
今回新たに開発した技術では、放射光のX線を照射することにより、特定の金属の周辺に電子(光電子)を供給して還元後に配位子で安定化する方法を考案しました。これはエネルギー選択性と細く絞られた放射光の特性をうまく利用したものです。放射光照射による還元反応の存在は知られていましたが、単なる厄介者と扱われていました。それを逆手にとり化学反応と組み合わせることで、新しい合成技術を開拓し、13個の銅(Cu)原子からなるナノクラスターの成長、基板上に安定化させることに成功しました。
作成したナノクラスターの構造を分子軌道法(DFT)*1とX線吸収スペクトル(XANES)*2で調べ、精度の高い計算手法(FPMS*3)で計算し比較たところ、13個のコア原子が正20面体の頂点と中心に配置する構造をしていることが示されました(図2)。さらにコア原子は正電荷をもつクラスターであり、配位子の窒素原子が強いアミド結合を持つことがエックス線吸収微細構造(EXAFS)*4の局所構造とDFTからわかりました。これは放射光照射により、光電子の供給と同時にプロトン脱離が起こり、電子供与性の高いアミド配位生じたと考えられます。このような電荷を持つクラスターは、従来型の金属クラスターとも反応性が異なることが予想されます。
本成果は英国Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。
論文タイトル"Nanoclusters Synthesized by Synchrotron Radiolysis in Concert with Wet Chemistry" [ doi:10.1038/srep07199 ]