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山田 悟史氏、日本中性子科学会奨励賞、日野 正裕氏、技術賞を受賞

物構研トピックス
2014年12月18日

12月11日、12日に行われた日本中性子科学会にて、KEK物質構造科学研究所の山田 悟史 助教が奨励賞を、京都大学原子炉研究所の日野 正裕 准教授(兼KEK物構研客員准教授)が技術賞を受賞しました。
奨励賞は、中性子科学に関して優秀な研究を発表した40歳未満の者に、技術賞は、中性子科学の技術的発展ならびに産業技術への応用において顕著な貢献を行った者またはグループに授与されるものです。

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授賞式の様子。金谷 利治 中性子科学会会長(一番左)、日野 正裕 氏(左から3番目)、山田 悟史 氏(右から2番目)

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MLFのBL16に設置された
中性子反射率計SOFIA

山田氏の受賞対象となった研究は「J-PARCにおける試料水平型中性子反射率計SOFIAの開発」です。
同氏は、学生の頃からリン脂質や界面活性剤などの両親媒性分子の自己組織化構造について中性子散乱実験を利用した研究をしてきました。同時に、中性子の装置開発にも携わり、J-PARC物質・生命科学実験施設(MLF)のBL16にKEKつくばキャンパスで運用されていた中性子反射率計ARISAを移設する上で重要な役割を果たしました。また、その後も装置のアップグレードを行い、JST/ERATOの高原プロジェクトと共同で新しい中性子反射率計SOFIAの開発に成功しました。特に、2次元検出器を利用した入射角分布補正、入射ビーム強度に対する最適化、ダブルフレームモードを利用した wide-Q領域測定など、高い質の実験研究につながる工夫を凝らしました。
これらのハードウェア・ソフトウェア両面における工夫によって国際的に高い性能を有しながら利用しやすい装置が実現しています。これらの中性子反射率計の開発における貢献が、中性子科学の発展に大きく寄与したと認められ、奨励賞が授与されました。

技術賞を受賞した日野氏の行った研究テーマは、「中性子反射光学素子の開発とその応用」です。

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MLFにて建設中のBL06。
赤い装置の中に偏極スーパーミラーが設置されている。

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偏極スーパーミラー

同氏は、中性子光学デバイスの高度化、特に中性子を反射させながら輸送するスーパーミラー、スピンの向きを揃える偏極素子、特定の波長の中性子だけを取り出すモノクロメータの開発に取り組み、それを中性子反射率計や中性子スピン制御技術に応用展開しています。中性子利用実験では、中性子発生源から、実験装置まで中性子を輸送するため、スーパーミラーには、よりたくさんの中性子を反射できる性能が求められます。これに対し、同氏はイオンビームスパッタ法により基板の上にニッケルとチタンを交互に膜厚を変えながら積層したスーパーミラーを製作し、当時の反射率性能を大きく上回ることに成功しました。
また、スピンの向きを揃える偏極素子開発では、磁性膜(鉄)と非磁性膜(シリコンとゲルマニウムの合金)の多層膜の間にシリコン薄膜を0.5 nm(1ナノメートル=百万分の1ミリメートル)程度挿入することで、イオンビームスパッタ法でも比較的低磁場で利用可能な高反射臨界偏極スーパーミラーを世界で初めて開発しました。偏極スーパーミラーは、中性子のスピンの向き揃えるためのもので、スピンの向きの混ざった中性子を入射すると、アップスピンだけを反射します。このミラーも実用化されており、研究用原子炉JRR-3等の利用だけでなく、現在MLFにて建設中のスピンエコー装置(BL06 VIN-ROSE)にも導入されています。
これらの同氏の開発によって中性子利用実験の可能性はさらに広がっており、中性子科学への貢献は大きいと認められ、技術賞が授与されました。


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