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タンパク質1分子でDNA2本鎖をほどく、新しい仕組み

物構研トピックス
2015年1月14日

 国立遺伝学研究所構造遺伝学研究センターの伊藤 啓 助教、信州大学理学部の伊藤 建夫 特任教授らの研究グループは、細菌などの細胞内にある環状2本鎖DNA「プラスミド」が、複製開始を担う因子「Rep」によってほどかれる瞬間を、フォトンファクトリーの構造生物学ビームラインを用いて明らかにしました。

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図1 大腸菌を利用したタンパク質の合成

 大腸菌など細菌は、染色体DNAとは別に環状2本鎖のDNA「プラスミド」を細胞内に持つことができます。プラスミドDNAは染色体DNA同様に複製され、細胞分裂後も各細胞に引き継がれてゆくため、ここに任意の遺伝子を繋ぎこみ細菌に導入する事で、その細胞内で目的のタンパク質を作らせることもできます(図1)。実際にこの技術は、任意のタンパク質を大量生産する手法の一つとして、研究や創薬などのために広く利用されています。

 染色体DNA、プラスミドDNA共に、ある特定の領域「複製開始点」から複製されます。複製開始点上に「複製開始因子」と呼ばれるタンパク質が結合する事でDNA複製が始まります。DNAを複製するには、その2本鎖が一時的にほどかれる必要がありますが、大切な情報を保管するDNAの2本鎖は安定で壊れにくい構造をしています。これをほどくには複製開始因子はDNAと強く結合する必要があり、充分な結合力と力学的強度を得るために、一般的に様々な複製開始因子が集合した複合体が必要になります。しかし、今回の研究で用いた大腸菌を宿主とするColE2プラスミドの複製開始因子Repは、分子量が小さいにも関わらず、たった一分子でDNAの2本鎖をほどき、RNAプライマーを合成し、DNA合成酵素を呼び込むというユニークなタンパク質です。

 今回の研究では、ColE2プラスミドの複製開始点の配列を含む2本鎖DNAと、RepのDNA結合領域との複合体の立体構造を解明しました(図2)。得られた複合体は、RepがまさにDNAの2本鎖を解裂させている状態にあり、これは複製開始因子による2本鎖DNA解裂中間体の結晶構造として初めての報告例でもあります。RepのDNA結合領域は3つのモジュールで構成され、1分子内の各モジュールが連携して複製開始点へ特異的に結合し、2本鎖構造を巧みに解く仕組みが明らかになりました。さらに、立体構造および機能が未知であったPriCTと呼ばれる領域が、2本鎖の解裂に重要な役割を果たす事も今回初めて明らかになりました。このドメインは様々なバクテリアを宿主とするプラスミドだけでなく、バクテリアや真核生物のウィルス等でも保存されていることから、今後これらのタンパク質が担う分子機構に対する理解がより深まると期待されます。

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図2 (A)解明された、 ColE2プラスミドの複製開始因子RepのDNA結合領域と複製開始点との複合体の立体構造。
DNA分子に沿って細長く巻き付くような形を持つ事で、DNAの構造を壊すに足りる結合力を確保している。
(B) 提案された複製開始点解裂のモデル。 PriCT領域は2本鎖の解裂と解けた構造の安定化に中心的な役割を果たす。
画像提供:国立遺伝学研究所 伊藤 啓

 本成果は米国の科学誌Journal of Biological Chemistryのオンライン速報に2014年12月23日に公開されました。

国立遺伝学研究所発表の記事はこちら
論文情報:"Structural basis for replication origin unwinding by an initiator-primase of plasmid ColE2-P9: Duplex DNA unwinding by a single protein"
Journal of Biological Chemistry (2014) DOI: 10.1074/jbc.M114.595645
Hiroshi Itou, Masaru Yagura, Yasuo Shirakihara, and Tateo Itoh


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