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地球深部マントルに中性水素が存在する可能性

物構研トピックス
2015年2月24日

KEK物構研の門野 良典 教授、小嶋 健児 准教授らミュオン物性科学研究グループは、東京大学、広島大学、物質・材料研究機構、愛媛大学、理化学研究所と共同で、地球深部、下部マントルの模擬物質であるステイショフ石(石英の高圧相鉱物)をJ-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)、カナダのTRIUMF研究所、英国ラザフォードアップルトン研究所(RAL)、スイスのポール・シェラー研究所(PSI)を利用し、ミュオンビームで調べたところ、水素が原子状態の中性水素としてステイショフ石中に存在する可能性を示しました。

Fig1_ver5.png

図1 地球内部の断面図
上部マントルと下部マントルは、岩石を構成するケイ
酸塩鉱物中のケイ素の配位数の違いで特徴づけられる。


Fig2_ver3.png

図2 スティショフ石の結晶構造
スティショフ石の小さく異方的な空隙(白色部分)に
ミュオニウムが存在することを発見した。

水素は、太陽系で最も豊富に存在する元素の一つで、酸素と結合した水は、地球表面の70%を占め、生物界を支える基本的な要素になっています。太陽系の元素存在度に関する研究や高圧実験から、地球内部には、相当量の水が隠れた形で存在する可能性が指摘されてきました(図1)。マントルは、カンラン石やその高圧相を主としたケイ酸塩鉱物で構成されており、水を水酸基(OH-)として取り込むと考えられています。

今回、研究グループは深部マントルの模擬物質として、10万気圧以上の高圧力下で安定なスティショフ石(石英の高圧相、図2)という鉱物にミュオンを注入して、その存在状態を調べました。その結果、ミュオンは、電子を一つ束縛したミュオニウムという状態で、スティショフ石中の空隙に存在していることが分かりました。ミュオニウムは、中性水素に相当する状態であり、その存在は、水素が原子状態の中性水素として存在することを示唆しています。

この発見は、深部マントルに存在する水素の状態が、これまで定説とされていた水酸基(水)としてだけでなく、中性水素としても存在する可能性を示しており、地球の進化やダイナミクスにおいて極めて重要とされる地球内部の水素の循環に新たな一石が投じられたことになります。

本成果は英国Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌Scientific Reportsに2月13日版に掲載されました。

東京大学発表のプレスリリースはこちら

論文情報
"Muonium in Stishovite: Implications for the Possible Existence of Neutral Atomic Hydrogen in the Earth’s Deep Mantle"
Nobumasa Funamori*, Kenji M. Kojima, Daisuke Wakabayashi, Tomoko Sato, Takashi Taniguchi, Norimasa Nishiyama, Tetsuo Irifune, Dai Tomono, Teiichiro Matsuzaki, Masanori Miyazaki, Masatoshi Hiraishi, Akihiro Koda & Ryosuke Kadono
Scientific Reports 5, 8437 (2015), DOI:10.1038/srep08437


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