九州大学大学院医学研究院の橋口隆生助教らの研究グループは、米国スクリプス研究所、ヴァンダービルト大学との国際共同研究で、マールブルグウイルスとエボラウイルスの両方に結合するヒト抗体を特定し、ウイルスがヒトの細胞に感染するために必須の糖タンパク質であるGPタンパク質との複合体の立体構造をフォトンファクトリーと米国Advanced Light Source (ALS) の放射光を用いて解明しました。
2014年以降、エボラ出血熱が西アフリカを中心に流行し、世界的に大きな問題となっています。1967年にヨーロッパでアウトブレイクを起こしたマールブルグウイルスは、エボラ出血熱の原因であるエボラウイルスと同じフィロウイルス科に属し、ほぼ同様の重篤な症状を示します。これらのウイルスがヒトの細胞に侵入する(感染する)には、ウイルス表面にあるGPタンパク質がヒトの細胞上の受容体と結合することが必要となります。一方、GPタンパク質は、ヒトの免疫応答で作られる抗体が、ウイルスを排除するときの標的とする分子でもあります。研究グループは、マールブルグ出血熱の感染者由来のB細胞から抗体を複数取り出し、その中に、マールブルグウイルスとエボラウイルスの両方に結合する能力のある抗体MR78があることを発見しました。
さらに、研究グループは、このMR78抗体とGPタンパク質の複合体の構造を、フォトンファクトリーのBL-1Aを使用した放射光X線結晶構造解析により明らかにしました。抗体MR78は、エボラウイルスとマールブルグウイルスのGPタンパク質の、類似したアミノ酸配列を認識して結合することがわかりました。この領域は、マールブルグウイルスがヒト細胞の受容体と結合する部位、すなわち感染に必須である部位と一部重なっているため、抗体MR78はマールブルグウイルスの感染を効果的に中和することができると考えられます。
ALSで行ったX線小角散乱実験より、両方のウイルスのGPタンパク質に存在するムチン様ドメイン(糖鎖に富み、特定の構造を取っていない領域)の配置が両者で異なることが明らかになりました。この配置の違いが、ヒトの抗体によるウイルス排除のメカニズムの違いに関係している可能性があります(図)。今回の研究により、これらのウイルスの感染を防御するには、それぞれどの領域を標的にした抗体を作成するのが効果的か、ワクチンや抗ウイルス薬設計の重要な指針になり、マールブルグ出血熱、エボラ出血熱の根絶に向けた研究が加速することが期待されます。
本研究成果は、2015年2月26日に、米国科学誌「Cell」に、2本の論文として同時に掲載されました。そのうち、放射光X線による構造解析を含む論文は以下のものです。
論文情報
“Structural basis for Marburg virus neutralization by a cross-reactive human antibody” Cell, 160, 904-912 (2015)
Takao Hashiguchi, Marnie L. Fusco, Zachary A. Bornholdt, Jeffrey E. Lee, Andrew I. Flyak, Rei Matsuoka, Daisuke Kohda, Yusuke Yanagi, Michal Hammel, James E. Crowe Jr., Erica Ollmann Saphire
[ DOI:10.1016/j.cell.2015.01.041 ]
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