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セシウムイオンを選択して吸着するタンパク質の発見

物構研トピックス
2015年3月23日

日本原子力研究開発機構 原子力科学研究部門量子ビーム応用研究センター分子構造・機能研究グループの新井栄揮研究副主幹は、鹿児島大学農学部と共同で、好塩性細菌*1が作るタンパク質の一種HaBLAが、セシウムイオンを選択して吸着する部位を持つことを発見しました。

死海のような塩湖など、高い塩濃度環境に生息する好塩性細菌が作りだす好塩性タンパク質は多くのマイナスの電荷をもちます。そのため、好塩性タンパク質が希少金属やセシウムイオンも含む様々な金属イオン(陽イオン)を吸着する部位を有する可能性があります。 本研究では、好塩性タンパク質の中でも比較的高い酸性アミノ酸含量を有し、かつ、大腸菌への遺伝子組換えによって大量に得られるHaBLAについて、立体構造の解明とセシウムイオンの吸着部位の検出を試みました。

fig1.png

図1 HaBLAの分子表面
赤が負電荷、青が正電荷を示す。
HaBLAの表面には、金属イオンの吸着
に寄与する負電荷(赤)が多く存在し
ていることが分かった。
画像提供:日本原子力研究開発機構

フォトンファクトリーを利用したX線結晶解析*2の結果、HaBLAの分子表面は、ほとんどが負電荷で占められ、多くの金属イオン吸着部位を有する可能性が明らかになりました(図1)。続いて、HaBLA結晶にセシウムイオンを加え、佐賀県立九州シンクロトロン光研究センターを利用してX線の異常分散効果*3を測定し、HaBLAに吸着したセシウムを検出するとともに、X線結晶解析によりその吸着部位の構造を解明しました。更に、今回発見したセシウムイオン吸着部位は、セシウムイオンに似た性質を有するナトリウムイオンが多く含まれる溶液でも、セシウムイオンを選択して吸着することが明らかになりました(図2)。

fig2.png

図2 左:HaBLAに結合した金属イオン 右:セシウムイオン吸着部位の拡大図
青の網掛はセシウムイオンの電子密度で、この部位はトリプトファン(W189)のベンゼン環、および、グルタミン(Q186)とトレオニン(T188)の主鎖の酸素(O)によって構成されることが明らかになった。
画像提供:日本原子力研究開発機構

本研究により、タンパク質にセシウムを選択して吸着する部位が存在することが初めて明らかになり、好塩性タンパク質は、様々な金属イオンを吸着する立体構造情報を知るために有用な分子であることがわかりました。また、立体構造情報の特徴を利用すれば、類似した部位を持つタンパク質の生体での分布を調べたり、他のタンパク質にセシウムイオン吸着部位を人工的に作ることが可能になるかもしれません。今後は好塩性タンパク質を利用した希少金属の捕集材料開発の可能性も検討する予定です。

本研究成果は、2015年2月26日に「Acta Crystallographica Section D」に掲載されました。

日本原子力研究開発機構発表のプレスリリースはこちら


◆ 用語解説

  • *1 好塩性細菌

    塩環境に適応するとともに塩を生育に要求する細菌。生育する塩濃度によって大まかに、高度好塩菌(塩濃度20% 以上)、中度好塩菌(塩濃度5~20%)、低度好塩菌(塩濃度2~5%)に分類できる。HaBLAを作る好塩性細菌Chromohalobacter sp.560は、中度好塩菌である。

  • *2 X線結晶構造解析

    結晶にX線を当てると、結晶中に規則正しく並んだ原子のそばをX線が通過するときに曲がり込み(回折)が生じる。回折したX線は、結晶中の原子の配置に対応した様々な強度の点をとして観測することができる。この点の分布と強度から、元の結晶中の原子の分布を求める解析をX線結晶解析と呼ぶ。

  • *3 X線の異常分散効果

    原子の種類によって、特定の波長域のX線の回折や吸収が不連続的に大きく変化する現象。結晶を用いてX線の異常分散効果を測定すると、結晶中における特定の原子の種類や位置を正確に調べることができる。

◆ 関連サイト