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燃料電池材料の性能低下原因をマルチプローブで解明

物構研トピックス
2015年4月30日

東京理科大学の伊藤 孝憲 客員研究員と井手本 康 教授らの研究グループは、電力中央研究所、名古屋工業大学、KEK、徳島大学、弘前大学、日本原子力研究開発機構との共同研究により、固体酸化物型燃料電池(SOFC)の電解質材料である安定化ジルコニアの長期アニールによる結晶、局所構造の変化をSPring-8の放射光X線回折、研究用原子炉JRR-3の中性子回折、フォトンファクトリーARのX線吸収によって解明しました。

水素と酸素から発電する燃料電池はクリーンなエネルギーデバイスとして注目されています。その中で電極、電解質を含む全てが固体で構成されているものをSOFC(Solid Oxide Fuel Cell)と言い、高い温度で作動し、発電効率も高いことから次世代エネルギーデバイスとして期待されています。SOFCが実用化されるには、10万時間の作動時間が要求されており、特に電解質の耐久性が重要となっています。この耐久性の評価は、電気化学特性やラマン分光では盛んに行われていますが、原子やイオンの位置を直接的に観測する放射光、中性子を用いた研究はほとんど行われていません。

井手本教授らのグループは、SOFC電解質材料である安定化ジルコニアについて、加熱時に酸素イオン伝導が低下する(Zr0.85Y0.15)O2-δ(8YSZ)と低下しない(Zr0.81Sc0.18Ce0.01)O2-δ(10SSZ)を用意し、それぞれ600℃、800℃で2000時間まで加熱し、放射光X線回折、中性子回折、X線吸収測定を行いました。

fig_1.png

図1 加熱によるZr-O面の電子密度の変化
(a) 8YSZ、(b) 10SSZ。8YSZはアニールによって
サイト中心に電子が集まり、10SSZでは電子が外側に
広がることが分かる。

その結果、酸素イオン伝導が低下するもの(8YSZ)と低下しないもの(10SSZ)では、加熱によって電子の集まり方に違いがあることが分かりました(図1)。この局所構造をX線吸収スペクトルにより更に詳しく解析、第一原理計算によって求めると、Zrイオンの位置が歪んでずれていることが分かりました(図2)。これらのことから酸素イオン伝導度は局所的なZrO8の歪みにより、長周期的な秩序性が関係していると考えられます。このようなイオン伝導度の原因解明により今後、SOFCの耐久性改善に応用されることが期待されます。

fig3.png

図2 (a) X線吸収スペクトル、差スペクトルと第一原理計算よりシミュレーションしたスペクトル。
(b) 第一原理計算に用いた構造モデル。Zrイオンをシフトさせることで、差スペクトルが再現される。

この成果はアメリカ化学会の発行する「The Journal of Physical Chemistry C」に4月1日(現地時間)オンライン掲載されました。

論文情報
Title: "Effect of Annealing on Crystal and Local Structures of Doped Zirconia Using Experimental and Computational Methods" [DOI: 10.1021/jp5117118]
Authors: Takanori Itoh, Masashi Mori, Manabu Inukai, Hiroaki Nitani, Takashi Yamamoto, Takafumi Miyanaga, Naoki Igawa, Naoto Kitamura, Naoya Ishida, & Yasushi Idemoto

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