大阪ガス株式会社と富士電機株式会社は、MEMS *1技術と高性能触媒を組み合わせた新しい電池駆動型ガス警報器用低消費電力ガスセンサーを世界で初めて開発し、実用化しました。その開発の過程において、富士電機、北海道大学触媒化学研究センター、東京医科歯科大学と高エネルギー加速研究機構は、共同して蛍光 XAFS 法を用いて活性構造の解明を行い、センサーの長寿命化に貢献しました。
メタンなどの天然ガスは、環境負荷が小さく、扱いも容易な家庭用エネルギー源で、万一のガス漏れを防止するために様々な安全装置が開発されています。特に、ガス警報器を設置することは、ガス使用場所における万が一のガス漏れを未然に防ぐのに有効です。従来のガス警報器はガスセンサーを一定の温度に保つ必要があることから消費電力が大きく、AC電源が必要でした。そのため、コンセントの場所に影響されるなど、設置場所に制約があり、設置場所に制約のない電池駆動型のガス警報器が望まれていました。
ガスセンサーは二酸化スズ(SnO2)の結晶の表面にガスが吸着、それにより電気伝導が変化する性質を利用しています。しかし、この反応を引き起こすには高温にすることが必要であり、そのために消費電力が大きくなっていました。電池駆動型にするためには、低消費電力にする必要があり、MEMS技術により小型化し、パルス状の電力供給にしました。またSnO2の反応性を上げるため、白金(Pt)やパラジウム(Pd)を添加しました。これは、古くから行われていたもので、PtやPd微粒子が触媒として、メタンや酸素を活性化することで、反応性が増すと考えられていました。今回、この構造をフォトンファクトリーの蛍光XAFS*2法で調べたところ、Ptは微粒子ではなく、SnO2格子中に原子状に高分散していることが分かりました。さらに、このSnO2は結晶格子構造で高活性、アモルファス化では活性が下がることを見出し、SnO2の格子構造とその中に高分散した構造の重要性が示されました。また、反応最中についても蛍光XAFSで調べたところ、反応中でもSnO2格子構造を維持、Pt粒子が形成されないことが観測され、格子中に分散したPtが活性に重要であることを明らかにしました。
触媒中に僅かに添加された元素の分布や反応最中における構造の変化など、XAFSの特性を利用した結果は、生産現場にフィードバックされ、高性能化、製品の信頼性の向上に役立てられました。
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論文情報
1. N. Murata, T. Suzuki, M. Kobayashi, F. Togoh and K.Asakura, Characterization of Pt-doped SnO2 catalyst for a high-performance micro gas sensor. Phys Chem Chem Phys. 15,17938-17946(2013).
2. N. Murata, M. Kobayashi, Y. Okada, T. Suzuki, H. Nitani, Y.Niwa, H. Abe, T. Wada, S. Mukai, H. Uehara, H. Ariga, S. Takakusagi and K. Asakura, A high-temperature in situ cell with a large solid angle for fluorescence X-ray absorption fine structure measurement. Rev Sci Instrum. 86,034102(2015).
微小電気機械システム(Micro Electro Mechanical System)、およびその創成技術のこと。機械要素部品、センサー、アクチュエーターや電子回路などを一つの基板に集積したデバイスで、プロジェクターやプリンターヘッドなどに使用されている。
XAFS(ザフス、X-ray Absorption Fine Structure / X線吸収微細構造)は、入射するX線のエネルギーを変えながら物質による吸光度を測定する実験方法で、注目した原子の近傍の局所的な構造や化学状態を知ることができる。分析する試料は結晶でなくても良く、アモルファスや反応の最中の構造変化も調べることができる。XAFSは吸収を見る手法であるが、吸収の代わりに蛍光X線を測定する手法を蛍光XAFSという。