東京電機大学 工学部環境化学科の藪内(やぶうち)直明 准教授らの研究グループは、ニオブとリチウムを主成分とした新規酸化物を合成、リチウムイオン電池の新しい正極材料として有望であることを発見しました。そしてフォトンファクトリーを利用し、充放電に伴うニオブとマンガンの電子状態を観測しました。
蓄電池であるリチウムイオン電池は、小型の電子機器用(~10 Wh)から大型の自動車用(~20 kWh)まで、生活のあらゆる場面で広く利用されています。電気自動車の本格普及や、余剰電力の有効利用を目的とした電力スマートグリッドシステムなどのため、リチウムイオン電池の高性能化が進められています。蓄電池は、正極、負極、そしてイオン伝導体から構成され、これらをリチウムイオンが移動することで、充放電されます(図1)。電池の大容量化には、電極材料に高エネルギー密度でリチウムイオンを脱挿入することが必要です。これまでの研究で、負極材料では従来技術を大きく上回る材料が開発されていますが、正極材料では、まだ高エネルギー密度のものはなく、次世代リチウムイオン電池開発の足かせとなっていました。
藪内氏らの研究グループでは、従来のリチウムイオン電池を、構造を全く変えることなく、高エネルギー密度を可能にする電池材料の開発に取り組んでいます。その中で、これまでは電池材料として目されていなかったニオブを用いた新規材料の構成に着手しました。そして、一部のニオブをマンガンなど他の遷移金属イオンと置き換えると、電気伝導度が向上、酸化物イオンから電子とリチウムを可逆的に脱挿入できることを発見しました。
この鉄ニオブ系材料(Li1.3Nb0.3Mn0.4O2)を評価したところ、既存の電気自動車用のリチウム電池で広く用いられているスピネル型リチウムマンガン酸化物(LiMn2O4)やリン酸鉄リチウム(LiFePO4)を大きく上回る950 mWh/gのエネルギー密度(正極重量ベース)が得られることがわかりました。このエネルギー密度は、これまでに報告されているトポタクティック(充放電時に結晶構造の破壊を伴うことなく進行する反応)な反応様式で進行するリチウムインサーション材料としては非常に高い値です。充放電時の構造変化をフォトンファクトリーを利用し、X線吸収分光法(XAS)で電子状態を調べたところ、これらの反応は電気化学的に不活性なニオブの存在により特異的に安定化されるためと考えられます。
これらの研究成果は、酸化物イオンの酸化還元反応を利用することで現状以上の高エネルギー密度な電極材料の開発の実現につながる可能性も秘めています。高性能電池材料の実現はノートパソコンやタブレット端末のさらなる軽量化、将来的な電気自動車用の走行距離の増加などの可能性だけでなく、リチウムイオン電池の新たな市場の開拓につながることが期待されます。
この成果は米国科学雑誌『米国科学アカデミー紀要(略称:PNAS)』のWebサイトにて6月8日(現地時間)に発表・公開されました。
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論文情報:
Title: "High-capacity electrode materials for rechargeable lithium batteries: Li3NbO4-based system with cation-disordered rocksalt structure" [DOI:10.1073/pnas.1504901112 ]
Authers: Naoaki Yabuuchi, Mitsue Takeuchi, Masanobu Nakayama, Hiromasa Shiiba, Masahiro Ogawa, Keisuke Nakayama, Toshiaki Ohta, Daisuke Endo, Tetsuya Ozaki, Tokuo Inamasu, Kei Sato, and Shinichi Komaba