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硬組織と軟組織の両方を鮮明に捉えるX線イメージング

物構研トピックス
2015年8月24日

群馬大学大学院理工学府の砂口尚輝助教、東京理科大学研究推進機構総合研究院の安藤正海教授(KEK名誉教授)らのグループは、放射光の特性を利用したX線暗視野法と呼ばれる位相コントラストX線CT(断層撮影)法のアルゴリズムを改良し、従来見えなかった硬組織と軟組織が混在する領域を鮮明に撮像する方法を開発しました。

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リウマチモデルマウスの足
左から:吸収コントラスト、位相コントラスト(従来再構成法)、位相コントラスト(本方式)。フォトンファクトリーBL-14Cで撮像。 従来法と本方式を比較すると、従来法ではアーチファクトによる構造の欠落(青矢印部分)があることが分かる。赤い丸で示した領域はリウマチにより破壊された骨である。

X線の波の性質を利用した位相コントラストCT法は、試料を通り抜けることによって生じるX線の位相のずれから三次元像を構築するイメージング手法です。この方法では、レントゲンに代表されるX線の吸収を利用した手法では見えにくい、軟骨や乳がんといった軟組織、骨折に至らない微細なひびなどを高感度で捉えられることから、多くの研究グループがさまざまなイメージング方式を用い実用化を目指して研究開発を進めています。しかし、高感度であるが故に、骨や石灰化などの硬組織が含まれた部分では、測定のダイナミックレンジを超えてしまい、画像全体に悪影響を及ぼす現象(硬組織アーチファクト*1)が、位相コントラスト法の共通の克服すべき課題となっていました。

研究グループは、硬組織アーチファクトを効果的に除去するアルゴリズムを提案しました。この方式は、まず位相コントラスト法による投影像からダイナミックレンジを超える可能性がある領域を、吸収コントラスト法による投影像から特定します。特定された領域を欠落領域として扱い、その領域を位相コントラスト法に基づく先験情報が組み込まれた逐次的断層再構成アルゴリズムで更新していきます。その結果、硬組織領域から生じるアーチファクトが除去された断層像が再構成されます。この方式をリウマチモデルマウスの足(写真)、動脈硬化症を患った人の冠動脈および腸骨動脈に適用し、検証したところ、骨や石灰化から広範囲に生じる硬組織アーチファクトの除去が確認できました。

近年、従来の吸収コントラストCTでは、放射線治療における正確な治療計画の作成や、造影剤濃度測定などの定量的な診断のために、メタルアーチファクト*2除去に関する研究が注目されています。同様に、位相コントラストCT法についても将来実用化が進めば、軟組織で高い定量性を得るために、硬組織アーチファクトを除去する研究に注目が集まると考えられます。

本成果は、オンライン学術誌PLOS ONEに8月21日(米国東部時間14:00)付で公開されました。本研究の一部はフォトンファクトリーが重点的に推進する実験課題であるS2型課題(課題番号:2008S2-002)で実施されています。

Title: "In vitro validation of an artefact suppression algorithm in x-ray phase-contrast computed tomography" [ DOI:10.1371/journal.pone.0135654 ]
Authors: Naoki Sunaguchi, Tetsuya Yuasa, Shin-ichi Hirano, Rajiv Gupta, Masami Ando


◆ 用語解説

  • *1 アーチファクト
    もともとは人工物という意味で、医用イメージングにおいては、撮像条件や信号処理などのために、画像に生じた障害のこと。
  • *2 メタルアーチファクト
    吸収コントラスト法において、歯の金属補填物や体内に埋め込まれた金属などX線吸収の大きな物質が存在することにより、画像が乱れるアーチファクトのこと。臨床上でも大きな問題となっている。

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