京都大学の奥田浩司准教授は、熊本大学の山崎倫昭准教授と河村能人教授、大阪大学と名古屋大学と共同で、世界最強の KUMADAIマグネシウム合金の強化相である長周期積層秩序構造の形成過程をKEKフォトンファクトリー、SPring-8を用いて解明しました。
熊本大学の河村教授らによって開発されたKUMADAIマグネシウム合金は、軽くて強く、かつ不燃という特徴を持つ合金です。元来、燃えやすいマグネシウムに亜鉛(Zn)とイットリウム(Y)を添加することで超軽量高強度を実現し、航空機や自動車、さらには生体材料にまで応用が期待されています。この合金の強さは、長周期積層秩序構造(LPSO構造)によって発現すると考えられていますが、その複雑な構造がどのように形成されるのか、明らかになっていませんでした。
LPSO構造の形成過程を明らかにするため、合金が溶けた状態を超急冷、そこから融点以下の低温で加熱していくことで、合金全体の原子が一様に動く状態を作り上げ、その構造変化をフォトンファクトリーBL-6AのX線小角散乱装置を利用して測定しました。
測定の結果、原子が一様に混ざり合った状態から、YとZnからなるクラスターがランダムに形成されて成長し、そのクラスターが規則的な空間配列構造を自発的に形成すると同時に、周期的な積層欠陥が導入されるという「クラスター形成」と「クラスター配列」の 2 段階の変化を示す事が初めて明らかになりました(図2)。この結果は、大阪大学の君塚肇准教授の計算機による第一原理計算と、名古屋大学の田渕雅夫教授 によるX 線吸収微細構造(XAFS)により検証、確かめられました。
X線小角散乱では、広い角度範囲を複数の検出器を利用して同時リアルタイム計測することが多くあります。それぞれの角度では観測される構造情報が異なっていて、広角領域では原子レベルの構造情報を、小角領域では長周期構造といったナノ構造を解析する事ができます。その場合、小角と広角で異なる種類の検出器を使用すると、それぞれの領域で観測された変化を正確に評価することが難しくなります。BL-6Aでは小角と広角に同種の検出器がそれぞれ設置されているため、今回のように、溶液のような状態から長周期構造が形成される過程をミクロとマクロの両方から同時に観測、正確に評価することができました。
今回の成果で、このマグネシウム合金はこれまでに報告例のない二段階の相転移機構を持つ事を明らかにしました。また、まったく異なる他の材料に対しても、新たなナノ構造の自己組織形成手法の開発への示唆が得られると期待されます。
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論文情報
Title:"Nanoclusters first: a hierarchical phase transformation in a novel Mg alloy"[ DOI: 10.1038/srep14186 ]
Authors: H.Okuda,M.Yamasaki,Y.Kawamura, M.Tabuchi and H.Kimizuka
X線を使って物質の構造情報を得る手法の一つで、試料から散乱されるX線のうち、散乱角の小さい領域のX線を解析する方法。原子レベルの配列が広角領域に散乱されるのに対し、小角領域はナノ~数百ナノメートル(1ナノメートル=10億分の1メートル、10-9m)の構造を見ることが出来る。