IMSS

物構研 年頭挨拶

物構研トピックス
2016年1月 7日

新年、明けましておめでとうございます。

物質構造科学研究所(IMSS)は、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の研究所として、放射光、中性子、ミュオン、ならびに低速陽電子などの量子ビームの先端的利用と複合的利用が可能な、物質・材料・生命科学の研究拠点として、国内外の基礎から応用にいたる広範な分野における研究者の自発的な研究と教育を推進し、人類と社会の継続的発展に向けて活動しています。

昨年は、2つのノーベル賞(物理学賞が梶田隆章先生、医学・生理学賞が大村智先生)の日本人受賞で日本中が勇気づけられました。梶田先生は「ニュートリノが質量を持つことを示すニュートリノ振動の発見」が受賞理由で、「この発見がすぐに役立つものではなくて、人類の知の地平線を拡大するような研究を研究者個人の好奇心に従ってやっている」とコメントされています。大村先生の受賞理由は「寄生虫やマラリアなどに関する研究」で、微生物が作り出す有用な化合物を多数発見し、医薬品などの開発につなげる、まさに、人類社会にすぐに役立つ研究です。

一方、ノーベル賞発表前の10月1日にはTHE( The Times Higher Education )が世界大学総合ランキングを発表し、日本の主要大学のランキング急低下が話題となりました。また日本から海外への留学生数がアジアの他の国々と比較して急速に落ち込んでいることも大きな問題です。スポーツや芸術などで若い人達が外国に出て活躍しているのとは対照的です。日本の大学や研究所での基礎研究や基礎科学の将来に影を落とす、このような現象は、ひいては日本の産業界にも大きな影響を及ぼしかねません。

最近の基礎科学や基礎研究が、すぐに社会に役立つ研究を意識しすぎて、特に学生や若い研究者達が萎縮していることはないでしょうか?梶田先生と大村先生の研究は一見対極的な研究に見えるかも知れませんが、両者とも、いつかは人類社会のためという大きな夢を抱いた、好きでたまらない研究です。1932年に日本人初のノーベル物理学賞の候補に挙がった本多光太郎先生の、「産業は学問の道場である」の意味することは、すぐに社会に役立つ研究をせよということではありません。いつかは人類社会のためとの夢を持つ学問が必要であり、それによって産業の発展があるという意味ではないでしょうか?大学や研究所は、学問(基礎科学や基礎研究)そのものを進展させるとともに、この道場に大きな夢を持って入門し、社会や産業の骨骼を支える人材を育成することが重要な使命です。

IMSSの使命は量子ビームによる物質・材料・生命科学の進展だけでなく、これら科学に大きな夢を抱き、研究が好きでたまらない若い人達を増やしていくことです。IMSSの4つの量子ビームの将来には多くの課題が山積していますが、この使命を忘れず、今年もこれらの課題解決に向けて、新しい提案とその実現に向けて最大限の努力を傾けていく所存です。

平成24年に所長に就任して以来のモットーは、「和して属さず、本質を語る」です。IMSSが関わる大型施設は、チームワーク無しに運営することはできません。KEKの中では、IMSS所員、加速器施設員、そして外に対してはユーザーやコミュニティの皆様と「和して」、しかしなれ合いになることなく(「属さず」)互いに切磋琢磨し、本当に重要なことは何かを常に考えつつ(「本質を語る」)行動し、物質・材料・生命科学の国際研究拠点を充実させていきたいと考えています。

今年も、IMSSをどうぞよろしくお願いいたします。

最後になりますが、本年も皆様のご健勝とご発展を祈念いたします。

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