東京大学大学院薬学系研究科の大戸梅治准教授、石田英子特任研究員、清水敏之教授、福島県立医科大学医学部附属生体情報伝達研究所の井上直和准教授、大阪大学大学院工学研究科の内山進准教授らの研究グループは、受精時に精子と卵子を直接認識するタンパク質の詳細な立体構造(図1)をフォトンファクトリー(PF)およびSPring-8を利用して解明しました。
哺乳類の受精では、まず精子が卵子に接着し、その後両者の膜融合が起こることでそれぞれ の遺伝情報が組み合わされ遺伝的に新たな個体が作られます。IZUMO1*1は精子表面に、JUNO*2は卵子表面に存在するタンパク質で、両者が複合体を形成することで精子は卵子表面に接着します。いずれのタンパク質も欠損させると受精が起こらなくなることから、精子と卵子の認識に必須なものと考えられます。これらが、どのような相互作用で結合しているのかは不明であり、IZUMO1とJUNOの認識機構の解明は、基本的な生命現象の解明だけでなく、避妊薬の開発などへの発展も見込まれます。
本研究グループは、IZUMO1単体、JUNO単体、IZUMO1-JUNO複合体の3種の立体構造をX線結晶構造解析により明らかにしました。その結果、IZUMO1は細長い構造、JUNOは球状の構造をしていることが分かりました。JUNOは葉酸*3受容体と非常によく似た構造をしていましたが、葉酸とは結合しないことが知られています。今回解明された構造から、JUNOは疎水性残基に囲まれたポケットを持っているものの、葉酸認識に重要なアミノ酸残基が一部異なり、またアミノ酸残基の側鎖がポケットを狭める形で配向しているために葉酸と結合できなくなっていることが分かりました(図1)。また、IZUMO1-JUNO複合体(図2)はIZUMO1とJUNOが1対1の比率で結合しており、IZUMO1の中央部とJUNOの疎水性ポケットの裏側が相互作用することで結合していました。
この研究成果は、受精の最初のイベントである精子と卵子の結合がどのような相互作用によって起こっているのかを明らかにしました。これらの構造情報をもとに、IZUMO1とJUNOの結合を阻害するような非ホルモン性の避妊薬の開発につながることが期待されます。
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論文情報
雑誌名:Nature
タイトル:"Structure of IZUMO1-JUNO reveals sperm-oocyte recognition during mammalian fertilization"
著者:大戸梅治、石田英子、クラユヒナエレナ、内山進、井上直和、清水敏之
DOI:10.1038/nature18596